菫、走る-3
それは今から一週間前、丁度私がストーカー被害から解放された頃。
菫と、家の経営の関係でオバサンを残し、父と二人で夕飯に近くのお蕎麦屋サンへ
向かった時だった。
蕎麦屋は、この時間帯は割と混んでおり、菫達の次に入ってきた客が、相席と二人の
向かいに座り。
その客は自分達と同じ親子らしく、そこそこ若く見える父親と自分と同年代の少年で
何の気に無しにその少年に目をやると驚いたそうだ。
「は、隼人?貴方隼人じゃないっ!?」
「……菫?お前、菫か?」
お互い不思議そうに目を見開き指を刺し合う両者。
神無月隼人、菫とは小学校の頃に出会った想い人。
しかし親の仕事関係でそのまま違う中学へ入り、それ以来連絡も取っていない
冴えない顔とクラスメートにからかわれている所を、隼人君が割り込み、そんな事ないだろと菫を助け。そのお礼を言いに隼人の元へ向かい、その時私が図書室に返却しへ向かう際、手にしていた野鳥図鑑の本に目をやり。
「お前も、鳥が好きなのか?」
「え、うん、時々パパとバードウォッチをしに行くの。ひょっとして君も?」
それから二人はバードフレンドとなり、焼き鳥を見て「今度の休みの日、一緒にバード
ウォッチしに行こうぜ」「んもぅ、隼人ったらぁ」。と言う感じで徐々に仲は
深まっていき。
次第に菫は彼に恋愛感情を抱き始めた、友達としてではなく一人の男の子として。
ダガ向こうはそんな友達の変化に気づく様子は無く、結局そのまま卒業を迎え。
そんな彼と偶然再会した物の、あまりに突然の出来事で何を話して良いのか分からず
「学校はどう?」「バスケ、頑張ってる?」とぎこちない会話をし。
「来週、ウチの学校でバスケの大会があるんだ。良かったら観に来ないか?」
「えっ?」
彼からの誘い。
尚、その時菫のオジサンは特にそれでどうこうする訳でもなく、八百屋で普段から人と
接客してるからか、直に隼人君の父親とも打ち解け、向こうも不器用ながら酒を交わし。
菫と隼人君の会話も、オジサンが用を足し、隼人君の父親が電話で席を外し、
二人っきりになった時の物で。
「それ、アンタに気があるんだよ、それ、アンタに気があるんだよ!」
「何故二回言う?…そんな、在る訳無いでしょ、私と付き合ってただ一度として女の子
扱いしてくれた試しが無いんだよ」
「菫は彼が好きなんでしょう!?そんな弱気でどーする?」
「…そりゃー彼には会いたい、会って自分の想いを伝えたい!」
菫は彼と離ればなれになる前、ずっと彼に伝えたかった言葉があった。
しかしそれも言えず仕舞いで終わってしまい。
「なら、そのバスケの大会、観に行こうよ!そして想いを伝える!」
「杏…」
ニィと笑って見せ、菫も呆れ顔でありつつも笑みを浮かべ。
「私も付き添うからさ…」
「うん、有難う杏」