菫、走る-2
「………えっ?」
「……。」
何時もと変わらない朝のホームルーム前の教室の風景。
サッカーボールを両手に、尻を自分の机へ置き、部活の話をする男子。
黄色い声と笑い声を発し、皆で一つの席にある音楽雑誌に目をやる女子。
本当に何時もと変わらない光景。ただ一人見慣れない少女を除いては…。
誰と群れる事無く、一人顎に片手を付きたそがれ、私も普通に着てる女子制服を身に纏い
その少女は、友人である菫の席に腰を下ろしている。
黒髪が滑らかなウェーブで肩までつき艶々しており、嗅いだ事も無いラベンダーのような
良い香りを漂わせている。
恐る恐る近寄る絆、そして確認をする。
「おはよう、……御園、サン、だよね?」
「……あぁ。おはよう杏、長谷川君!」
私たちにようやく気づき、自分の目の前に立っている私と彼に挨拶をする。
目を見開き、開いた口が塞がらない彼。それも無理は無い。
普段丸い眼鏡を身につけ横に髪を結びつけている菫、そんな彼女がここまで…。
良く見たら鼻の上に付いている雀斑も無く、顔も透明感溢れる艶々肌。
どうしたの?と彼が訪ねるもちょっとね♪と肩に掛かった髪を片手で弾きくだけで。
私に目線を合わせるも無言で首を縦に振る、私自身も昨日何食わぬ顔で一緒に登校を
共にし、そこで初めて目にした次第で。
「それは、恋ねっ!!」
「はいっ!?」
スーパーを背に、カレールーやじゃが芋の詰まったマイバックを手に持った母が得意気に
そう言い放つ。
「女の子が急にそんな変貌を遂げる、何て、それは好きな男の子に振り向いて欲しいカラ
こその思い切った行動なのよ!」
「んー」
いっぺんするといい加減な意見、ダガ翌々思考を巡らせみると全くの出鱈目では無いように感じ。菫が、恋……。
「アンタだってそうじゃない?彼とおデートする時、おめかしとかするでしょう」
「しないよ別に…」
「アラなんでよ」
「だって彼が、そのまんまの君で充分素敵だよ、ってニコッと言ってくれるから」
「フゥーーーー♪焼けるねぇ、俺なんかアイツ(夫)に一時間掛けてメイクとお着替えした
っていうのに、「電車に乗り遅れるだろ!悪あがきすんなっ!」ってぇ!」
「え、あははは」
「ムキィィィィ!思い出しただけで頭に来たぁ!。ウシ!今晩のカレーライスに青酸カリ
を入れてやる、フハハハハハァッ♪」
お父さん、ご愁傷様…。
「ブハッ!急に何言い出すのよっ!?」
案の定、母の意見をそのまま友人にぶつけ、口に流し込んでいたカフェオレを喉に詰らす
アイス屋で御馴染みのフォーティーワンにて、他愛も無い会話をしつつ、突然話を替える私…。
あたふたとテーブルに溢した液体をハンカチで拭き、その光景を目の当たりにした私は
自分と母の推理が、的中したと感じ。
「その思い切った風貌が動かぬ証拠よっ!」
「こっ、これはぁだからちょっと気分転換でぇ!」
偉そうに指を刺し、目をキョロキョロさせる菫。
気分転換?馬鹿な…。
「嘘!菫そんなキャラじゃないでしょっ!」
「それ、どういう意味よ!私だってお洒落くらいっ」
「お願い!ちゃんと打ち明けてぇ!」
「!!」
大声を挙げ、真顔で菫に言い放ち、そんな私に肩を竦め勢いを止める彼女。
私だって彼女が好き、だから…。
「菫は私の為に何時も相談に乗ってくれた、時には私の身を想い、単独で行動に移して
くれた…。」
「杏…。」
「だから今度は私が貴女の助けになる番!だから…。」
「……。」
菫を助けたい、恩返しがしたい。本当はこれだけじゃ物足りない、今まで助けて貰った
数を想うと、でもっ!
沈黙する菫、そしてしばらく思考を巡らせ。
「ハハ、人の事言えないね、ついこの前アンタが私にストーカーの事を告げてくれない事
に腹を立ててたのに」
「菫…」
「うん、杏の言う通りだよ…」
静かにゆっくりとした口調で、語りだす我が大切な友人。