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音楽
【純愛 恋愛小説】

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音楽―前編―-6

ころころ変わる表情や動作に隼人は自然と笑顔になった。隼人の視線に由香が気付いた頃、由香の動悸はだいぶ落ち着いていた。

「なに?」

「北野さんとは初めて会話したけど、こんなに明るい人だとは思わなかった。どうりで人気があるわけだね。」

由香はまたまた動きが止まった。大きい目をさらに大きく開いて固まる。

隼人は笑顔のまま由香を見つめていた。廊下ですれ違うだけの二人、由香はいつも誰かが傍にいて笑っていた。

屈託のない笑顔でいつもすれ違う由香。この子は幸せなんだと、隼人はいつも思っていた。

「私だって、斎藤くんがこんなに喋る人だとは知らなかった。でも、ずっと話してみたかったの。」

思わぬハプニングだったけど、結果的には嬉しい出来事だと由香は笑った。自分の知らないところで、自分に興味を持っていた人がいると知り、隼人はなんだか照れ臭くなる。

五時のチャイムが鳴り響き、戸締まり当番の先生が動き始めた。

「そろそろ下りないとね。テスト勉強もしなくちゃいけないし。」

「やだなぁ。」

ため息をつきながら下りる準備をし、二人は屋上を後にした。階段の途中で由香が隼人に話し掛ける。

「ね、斎藤くん。今日はすぐ帰っちゃうの?」

「どうかした?」

「暇だったら、私に数学教えてほしいな〜…なんて。」

「数学?」

「だめ、かなぁ?」

申し訳なさそうに強気で押そうとする姿が可愛らしくて隼人は吹き出してしまった。由香は今度は何をやらかしたのかと真っ赤になって焦る。その姿も愛しくさせた。

「いいよ、僕で良ければ。」

「本当!?やった!嬉しい、ありがとう!」

ぱっと顔が明るくなり、胸のあたりで拍手を何回もした。心の底から喜んでくれているのだと、隼人も嬉しくなる。廊下ですれ違う、笑顔の似合う由香は、隼人の想像以上の子だった。

想像以上に笑い、想像以上に表情がくるくる変わる。想像以上に綺麗な声で、想像以上に可愛らしい。

数学の勉強会も終わり、二人は一緒に帰ることにした。二人の帰り道分岐点で由香は去りぎわに呟いた。

「本当はもう少し一緒にいたくて数学を教えてって言ったの。」

由香が去った後、彼女の後ろ姿をみながら隼人は動けなかった。顔が赤くなり、鼓動が速い。

最後のはにかんだ顔が頭から離れない。

隼人は想像以上に由香の虜になってしまった。

それから二人は会う度に話すようになり、隼人は歌声がすれば屋上に行くようになった。由香は隼人を見つけると、どこにいても、どれだけ離れていても駆け寄って話し掛けた。


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