9.綻び-5
「悠花ちゃん。写真集発売、おめでとう! いやぁ、すごい売れ行きみたいじゃん」
馴れ馴れしい口調の男の声を改めて聞くと、一度セックスをしたとはいってもやはり嫌悪感は拭えなかった。
「何? 何か用?」
努めて愛想なく答える。
「あはっ……。冷たいなぁ……、『オトモダチ』じゃないか、俺たち」
「……っ!」
確かにあの日に結ばれた「関係」によって、今、村本は一躍有名になった悠花に遠慮無く電話をしてきているわけだった。村本はあの日以降ずっと、悠花の動向を一般人として見守っていた。あの日抱いた極上の女性は各メディアの中でキラキラと輝いていた。ネット上で交わされる誰とも知らぬ奴らの会話を見ていても、これまで瀬尾悠花を知らなかった男たちがどんどんファンになっていくのがわかった。
(その悠花ちゃんと、俺は何発もヤッたんだ……! しかもナマでっ!)
ネット上に寄せられている悠花への賛辞を眺めながら、村本生まれてこの方感じたことのない優越感に浸っていた。有名人、特にグラビア系とあらばネット上には下品なBBSがすぐに立つ。『瀬尾悠花をどんな風にオカズにしてる?』『瀬尾悠花にエッチできたらさせてみたい事』『悠花ちゃんを犯す時の必須プレイを集めるスレ』……、様々なサイトに下品な男たちのメッセージが書き込まれていた。村本は匿名の男たちの書き込みを一段高い位置から眺めつつ、悠花を我が物にした事を思い出し、スウェットの中で独りでに大爆発を起こしていた。悠花を呼び出す前まで自慰を自禁できていたが、一度その肢体と交わった経験がある以上、生々しい記憶と共に、あっ、と思った時には先端からあの時と同じくらいの発射が始まっていた。
(悠花ちゃんと……、またしたい)
悠花が目の前からいなくなってすぐにセックスの欲求が止まらなかった。メディアに登場している悠花を見ても、勤務中にふと思い出しても、即時に勃起して先端から透明汁を漏らし続けた。ほぼ毎日、家に帰るや否やズボンを下ろし、手に入れた悠花の下着を顔に被って、予約販売で十冊手に入れた悠花の写真集を開いた瞬間射精していた。
だが、すぐにでも悠花に会いたかったが、村本は自制した。今度は射精の我慢ではない。次に抱くときは、悠花の知名度、人気が高まったときにしたい。日々名声を上げていく悠花の様子を見ながら、村本はそんな気持ちが湧き起こり、もっと人気が出てほしい、と活躍を祈り続けた。そしてたった一週間強で、悠花がニュースサイトに大手化粧品会社のフラッグシップシリーズのTVCMに起用されたことを知った。そのCMと言えば、一流のモデルやタレントへの登竜門となっており、その出演者は「ブレイクしている」ことの証明と言えた。その報せはネット中に現出している新規悠花ファンに新たな燃料を注いだ。
抱きたい。さらに有名になって、自分と同じようにウダツが上がらず、醜く、モテない男たちにとって垂涎の存在となった悠花を、また己が欲望のままに、イヤラしく変態的なセックスをしたい。悠花に電話をしながら村本は陰嚢から滴るほどに先走りを漏らしていた。
「セフレが連絡してくる、なんて目的は一つでしょ? 悠花ちゃんがセフレになってくれた証拠、持ってるよぉ。憶えてるでしょ? それともイキすぎて忘れちゃったかなぁ? あはっ」
あの動画の中の自分は、不本意などではない、本心を吐露している。男を否定し、言い返す言葉がなかった。
「忙しいんだけど、最近。知ってるでしょ?」
「うん、知ってるけどね」
村本はさも当然のように言う。「でもあれからだいぶん経ったからさ、ヤリたくて仕方がないんだ、悠花ちゃんと。悠花ちゃんのオマンコでジュボジュボして、ザーメンいっぱい出したい」
「……」
舌打ちが出た。男が露骨な表現で自分の羞恥を煽ってきているのはわかってはいるが、それでも実際に言われると遣る方ない怒りがどうしても態度に出てしまう。