9.綻び-12
下着を露出させてしまっているスカートを下ろす猶予もあたえられず、その場にしゃがまされてしまった。刹那にすぐ前から布が擦れる音が聞こえて、はっと前方を見やると、すでに男は見下ろして立ったまま、チノパンを太ももまで引き下ろしていた。この体勢……、何をさせられようとしているかはすぐに気づく。
「イヤッ……」
顔を背けた頭に手を載せられて、その髪を梳かしながら前を向かせようとしてくるが、悠花は頑なに顔を上げようとしなかった。
「な、舐めて……。も、もう我慢できないよぉ。出ちゃいそう……」
先走り汁でヌルヌルになったブリーフは、黄ばんだ尖りから男汁臭を発して、悠花の鼻腔に漂ってくる。そのニオイは前に抱かれたときに嗅がされたものより数段濃厚だった。
「ム、ムリ、だし……、こ、こんな――」
こんな場所で、と言いかけて思いとどまる。場所の問題ではない。今までの恋人に対しては、生理でセックスができないときに数えるほど、男茎を手で導いただけである。艷やかな唇の中への侵入を許した男はいなかった。
悠花の拒絶を無視して、村本はブリーフのゴムに親指を入れて、腰を引いていっぱいに伸ばしながら、勃起の先を擦ってしまわないように慎重に引き下ろす。悠花の顔のすぐ前に勃起した男茎が露出した。ブリーフで幾許か押さえ込んでいた臭気が、完全に晒されたために更に強く悠花の鼻先を襲ってくる。
(……うわっ)
臭気の根源は明らかだった。前回は繰り返される射精の中でいつのまにか剥き落とされていたのだろうが、今目の前に晒された男茎の裏側には、亀頭の縁から捲れた包皮の付け根までベットリと粘液となった恥垢がこびりついて、引き下ろされたブリーフの表面に糸を引いて、脈動で男茎が弾むのに合わせてゆらゆらと揺れていた。
(ムリ……、絶対ムリっ!)
ニオイと光景だけで横隔膜が動いて、喉の奥から吐酸がこみ上げてくる。
「ほら、早くう……、で、出ちゃうっ……」
内ももに頻りに力を入れている様子から、男の懇願は嘘では無いことは嘘ではない。
「ムリッ……! それ、汚すぎる……」
見ているだけでも嘔吐感が止まらないのに、片手で頭を引き寄せられて、鼻先数センチまで引き寄せられる。「お願いっ、やめて……」
思わずしおらしく哀願したが、見上げた顔からサングラスを取り除かれ、涙に潤んだ瞳を見据えられた。
「ほら、咥えて? ほんとーっに、出ちゃう……。マジで」
「お願い、……本当に無理なの」
「お口に入れなきゃ、このまま出しちゃうよ? いいの? 頭からザーメンかぶったら、ここから出られなくなっちゃうよ?」
目の前で透明汁が先端に雫を作って、裏側をトロトロと流れていく。前回何度も見せられた凄まじい射精が思い起こされる。それがこの至近距離で行われたら、到底この死角を出て雑踏に戻ることはできない姿にされるだろう。
「別の方に向けて、だ、出したらいいでしょ」
「だーめぇ……、お、俺は悠花ちゃんのお口で出したいんだ……」
村本はここで悠花の中に入り射精するよりも口淫を選んだ。前回悠花の中に入ってから何度も、思い出せないくらい射精した。しかしこの一週間、悠花の知名度が上がってくるのを見るにつけ、まだその麗しい口腔を犯していなかったことに気づいた。瀬尾悠花の口の中に自分の精液をぶちまける。自分の薄汚い気色悪い性欲の溶け込んだ精液をその舌に味わせる――。
「ほら、出すよ、本当に。咥えなきゃ、し、知らないからねっ……!」
悠花の目の前で、亀頭が傘を更に開き、根元の方から何かせり上がってくるような動きを始める。外観をここで穢してしまっては、村本としても悠花をこの先連れ回すのに困る。しかしサングラスを取り美貌を晒した悠花の顔前で男茎を晒している快感に、せり上がってくる精液を押しとどめるなど不可能だった。