9.綻び-10
進んだ奥は少し広くなっていた。片側のビルに沿うように取り付けられている、錆に塗れた非常階段の降り口があるためだ。その横にはエアコンの室外機が並んでいる。非常階段は万が一の時には使い物にならないほど、通路にビールケースや、雨で溶けてしまっているダンボール類が積まれている。コンクリート上に堆積した砂塵には二人の足あとしか付いていないところを見ると、しばらく人が足を踏み入れていないのだろう。とはいえ、頭より少し高い位置には、おそらくトイレのものと思われる下開きのガラス窓がある。今は閉まっているが、誰かがヒョイ、と顔を覗かせることもあるかもしれなかった。
「……マジで、やめてよ。こんなところで……、ムリだから」
「だって、クンクン、もうガマンできないよぉ……」
と、村本は抱いていた悠花の腰から手を話すと、自分の方へ向かせて、両肩に手を置いて後ろに下がらせてくる。
「誰かに見られたらどうすんのよっ……!」
押されてよろめきながら、ビルの中にいるかもしれない誰かに聞かれることを恐れて、声量は小さくなる。
「……すぐ終わるからさ。ね? モタモタしてると、それこそ誰かに見られるかもしんないよぉ?」
と言いつつ、ミニスカートの上から悠花の腰骨の辺りに手を添えて、躊躇なく膝を汚れた床に付くと、まるで悠花を捧げ持つように見上げてくる。両手で裾を覆って隠しているが、短い丈のスカート姿で下方から男の視線を浴びただけでも、下腹部に恥辱の、しかし同時に喜悦も認めずにはいられない妖しい感覚が渦巻く。後ろに下がった悠花の体は、非常階段の手すりに凭れるように押し付けられた。
「ほら、手、どけて、脚ももう少し開いて立ってよ」
「だ、だって……」
劣情の色が浮かび、異常なまでの興奮によって狂気となったかと思える程のキモ顔で見上げてきて、
「はやくっ……、瀬尾悠花ちゃんのスカートの中、思いっきり嗅がせてよぉ?」
と、大して声量を落とさずに言い放ってくる。
「だから、やめてっ……、名前っ……」
「じゃ、早く。手は後ろの手すり、掴んで?」
正面にしゃがみ込み、下腹部のすぐ前に顔を持ってきたまま、両脚の側面に添えた手の指がミニスカートの裾に引っ掛けられてくる。一週間、恥を忍んで身に付け続けてきた下着を嗅がれる。屈辱的なはずなのに、脚を肩幅程度に開き、スカートの前面をガードしていた手を後ろに回して非常階段の錆びて塗装の剥げた手摺に手を置いて男の前に無防備になると、花園の奥がキュッと絞まって、これから起こることに対する期待で疼きが強くなってくる。
「悠花ちゃん……、すっごい、ココから香水の香りする……。もしかして、エッチなニオイ隠すために、スカートの中に香水振ってるのかなっ……?」
ミニをゆっくり丁重に捲りながら、村本が指摘すると悠花は図星で熱くなった顔を俯かせてしまう。シャワーを浴びているとはいえ、一週間も秘所を覆い続け、漏れてしまった愛液を染み込ませた下着を履き続ける中で、臭気に対する心配は当然のことだった。村本の指摘のとおり、誰に言われたわけでも自覚したわけでもなかったが、下腹部から淫靡な匂いが燻ってしまうのを隠そうと、内ももにフレグランスを纏わせていたのだ。芸術品のような起伏を呈している下腹部から、汚臭とは正反対のセクシーな香りを嗅いで、村本は叫び出したいのを必死でこらえた。
「んんっ……!」
目線を下に向けなくても、男の両手が自分の脚の付け根まで引き上げられ、体に触れるスカートの感触で、自分の下腹部が晒されたのが分かって声が漏れる。村本の目の前には、レオパード柄のセクシーな下着に包まれた、イヤラしくも気高い悠花の下腹部が丸見えになった。布地はかなり小さいのに、落ち度なく完璧に整えられたデリケートゾーンからは、ムダ毛一つハミ出していない。油断するような女ならば幻滅の光景もあったかもしれないが、美人モデルの理想のイメージ通りにアニマル柄のTバックは下腹部を見事なまでに飾っていた。