意外な強敵-6
おい、歩仁内! 自分の彼女のために沙織を売るなよ!
ジロリと歩仁内を睨むけど、奴はわざと俺と目を合わせようとしない。
「後ろでワイワイ楽しそうにされるとオレも寂しいからさ。話し相手になってね、沙織ちゃん」
そして州作さんは、助手席のドアを開けて、沙織に乗るように促した。
「でも……」
チラッとこちらを見た沙織と目が合う。
申し訳なさそうな、助けを求めるような、不安な顔。
助けてやらなきゃと、頭ではわかっているのに身体が反応できなかった。
正直、州作さんの見た目とは裏腹な押せ押せの雰囲気と行動力の早さに、すっかり圧倒されていたのだ。
「さ、乗った乗った」
沙織の細い背中を押して、半ば強引に助手席に乗せようとする州作さんに、ついに彼女は根負けしてしまった。
バタンと助手席のドアを閉めると、州作さんは口笛を吹きながら、運転席に回った。
取り残されたのは、俺達男三人衆。
真夏の生ぬるい風が、やけに哀れむみたいに俺達の髪の毛を撫でていった。
「なんつーか……、大山、ごめんね?」
横でボソッと呟く歩仁内に、ハッと我に返る。
「ぶ、歩仁内! お前の兄貴に何で俺と沙織が付き合ってるって説明してくんねーんだよ!」
奴の胸ぐらを掴んで、ユサユサ揺する俺に、歩仁内はひたすら申し訳なさそうに謝ってくる。
「ごめーん、大抵のことなら気にならないんだけどさ、江里子を助手席に座らせるのは、特別みたいな感じで嫌だったから……」
「だからって、沙織ならいいってのかよ!?」
「いや、ついうっかり……」
「うっかりで人の彼女差し出してんじゃねえよ!」
何だよ、本間さんの頭を撫でるのは黙認してたから、大丈夫だろうって思った俺が、バカみてえじゃん!
涙目で掴みかかる俺を、引き剥がした修が、ようやく口を開いた。
「落ち着けよ、倫平。お前が最初から沙織と付き合ってるっての言えばよかっただろ? 歩仁内だけが悪いわけじゃねえじゃん」
「で、でも……」
修は普段はヘラヘラふざけてばかりだけど、こういう時に客観的な意見をビシッと言う。
しかもそれが正論なものだから、俺はいつもぐうの音も出ないのだ。