試合結果と共に-1
【試合結果と共に】
帰宅すると、案の定、麻衣は居間に居らず、既に自分の部屋に戻っていた。
麻衣が居れば今日の事を話そうと思ったが、ワザワザを部屋にまで出向いてまで話す気は起きなかった。
「ただいま」と妻に声を掛けてから、真っ直ぐに風呂場に向かった。
妻に話す事は躊躇われた。やましい思いではなく、私の事を運動音痴と決めつけている妻に、少しは上達してから吃驚させようと思ったからだ。
筋肉痛は多分、2,3日後だと思うが、その時の辛さを思い浮かべて、入念に足をマッサージした。
翌日、重い体に鞭打って仕事に励んだ。プライベートに打ち込む物を見つけると、不思議と仕事にも集中するものだ。
その日の仕事を手早くこなし、早々に会社を出た。知美に飲ませるためのスポーツドリンクを買い、緑地公園の駐車場に車を止めた。
知美はまだ来てなかった。
上着を脱ぎ、スニーカーに履き替えた私は、昨日と同じように準備運動を始めた。
前屈運動をしている時に、自転車のブレーキ音が響いた。私は直ぐに顔を上げた。
すると予想に反し、そこには知美だけではなく、もう一人別の少女が自転車に跨ったままの状態で、驚いた顔でこちらを凝視していた。
「麻衣、これが昨日のおじさんよ。ほら、心配しなくても全然危なそうに見えないでしょ。おじさん、今日はもう一人上手い子を連れてきたよ」
知美が楽しそうに言った言葉は、殆ど耳には入らなかった。
「ま、麻衣…」
ポツリと零れた私の声に知美は反応した。
「へっ、おじさん、麻衣の事知ってるの?」
「お父さんよ。あたしの!」
麻衣が怒ったような声を知美に吐きだした。
「え―――――!麻衣のお父さんなの!」
知美の驚きを無視して麻衣は怒鳴った。
「何やってんのよ。こんな所で若い子を相手に」
まさか自分の娘の友人を相手に、練習していたとは思わなかった。それは麻衣も同じだろう。友人が知らないおじさんと、夜の公園で2人っきりだったと聞いて、心配して付いてきたに違いない。麻衣の怒りはもっともだった。
「怒らないでよ。変な事した訳じゃないのよ。リフティングの練習してただけじゃない」
麻衣の怒りを察した知美は麻衣を諌めた。
「どうして、お父さんがリフティングなのよ。ワールドカップのにわかサッカーファン?バカみたい」
「い、いや、運動不足を解消しようと…」
確かに麻衣の言う通りだった。切欠はそうなので、真相を突かれた私は口ごもった。
「そうそう、ただの運動不足の解消よ。麻衣が怒る事じゃないよ」
知美が取りなすように麻衣を宥めた。しかし、麻衣の怒りは収まらない。
「あたし、帰る」
麻衣は自転車を出口に向けると、そのまま漕ぎだそうとした。その麻衣の背中に向かって、知美がとんでも無い事を口走った。
「あら、麻衣が帰ったら、あたしお父さんを誘惑しちゃうよ。それでもいいの?」