試合結果と共に-3
その日の夜中、ワールドカップの試合は佳境に差し掛かっていた。勝てばベスト4の準々決勝の試合はフランス対ドイツの好カードだ。いつの間にかどっぷりとサッカーに嵌り込んでいた。
互いの国家斉唱が終わり、審判が試合開始の笛を吹いた時、ソファの後ろに人の気配がした。
振り向くと、パジャマ姿の麻衣が立っていたので驚いた。
「ま、麻衣か、今日はありがと…」
麻衣はたじろぐ私にお構いなく、そのまま私の横に座って、試合を観戦し始めた。
しばらくするとポツリと言った。
「ミュラー、上手いね。ドイツ勝つかな」
「あ、ああ、上手いな。ドイツ勝つだろうな」
「入った。すごっ!」
「入った。凄いな!」
長い試合時間に親子の会話はこれだけだった。しかしこれだけで私は充分だった。
試合が終わり、麻衣は「おやすみ」と言って、直ぐに自分の部屋に戻った。
その背中を見送りながら、少しづつ何かが変わっていく予感がした。
私も直ぐに寝室に向かった。しかし、熟睡は出来ない。早朝5時からもう一つの準々決勝の好カード、ブラジル対コロンビア戦がある。
仮眠を経て居間に向かうと、既に麻衣はテレビの前に陣取っていた。
「寝たか?」
私から声を掛けた。
「全然。でも大丈夫、学校で寝るから」
「全然大丈夫じゃないだろ」
突っ込む私に麻衣は微笑んだ。
「お父さんこそ、大丈夫なの」
「ああ大丈夫。会社で寝るから」
「あはは」
今度は声を上げて笑った。
「2人とも何をバカな事言ってるの。しっかり勉強して、しっかり稼ぎなさい」
いつの間にか起きていた妻が2人を諌めた。その目は信じられない物を見たような目をしていた。
ブラジル対コロンビアの好カード。私たちはロドリゲスの通算6点目に興奮し、ネイマールへの悪質なファールに憤慨した。