〈狂宴・前編〉-17
(こんな…こんなの見たくない!!嫌よッ嫌よぉ!!)
汗塗れのデブオヤジが尻を持ち上げるように抱き締め、フガフガと鼻息を鳴らしながらベチャベチャと股間を舐めている。
ジタバタと藻掻く身体は金髪鬼に跨がれ、逃げ出せぬままに痛ましい叫びを繰り返していた。
宝物と言っても良い奈和が、醜い獣に喰われていく光景は残虐という言葉を超越しており、優愛の繊細な精神は、あの頃のガラス細工のような脆弱なものに変わろうとしていた。
……と、扉がガチャンと重い音を発てて開いた……優愛はその方向を見る事が出来ず、奈和はその音すら聞き取る余裕は無い……この監禁部屋に訪問してきたのは救世主などではなく、作業着を着たサロトの部下だ……架純が言った通り、この建物の中には“御主人様”と、その部下達しか居らず、脱出など不可能なのだと痛い程に突き付けてきた。
『テメェが船の中で糞をしなかったって話したら、御主人様が心配してなあ……便秘で苦しいだろうからと、可愛い浣腸器を用意してくれたんだぜ?』
「……か…浣…ッ!?やあぁぁ!!!」
サロトの部下は俯せている奈和の目の前に、ガラス製の浣腸器を差し出した。
太さは親指くらいで長さは20pくらいの小さな物だが、その容器の中には細かい気泡が混じったピンク色の液体で満たされていた。
その極めて変態的な責め具が視界の後方に消えると同時に、奈和の股間からは温かな感覚が消え、強い抱擁も失せた……それがサロトが浣腸器を受け取った事の証であるのは、奈和にも直ぐに分かった……。
『あのピンク色の液体な、あれはローションだ……凄えヌメヌメしてるから、ちょっとでも“出た”ら、最後まで止まらないぜ?』
「し……信じらんない……そんなの私に…ッ!!やだよ!!やだあぁぁぁ!!!」
サロトが離れたので、奈和を捕らえているのは専務だけだ。
奈和は専務の足を掴んで身体を引き抜こうと藻掻き、それが叶わぬとなれば両手で股間を隠し、指を伸ばして肛門を守った。
『なんと?ケツの穴を隠したとな!この浣腸器の使い道を知っておるとは、なんと慎みの無い下品な牝じゃ?』
『いやいや、汚い穴を見られたのが死ぬほど恥ずかしかったんでしょう。なにせサロト様が初めての〈男〉なんですから』
生来の男嫌いな奈和は、世の中の男性に対して得も言われぬ嫌悪感を抱いていた。
芋虫や毛虫、もしくは蛇と同等か、それ以上に醜くて気味悪い生物としか感じてはいなかった。
そんな身の毛の弥立つ汚生物が自分に変態的な興味を抱き、それを向けてくる事に、奈和の精神は恐怖と拒絶の感情が混濁してしまった。