お満に忍びよる影-4
「ただいま戻りましたあ」
お満が元気よく道場に入ったが、既に稽古も終わっていて誰も居なかった。
「やだ、お稽古終わってる…」
がらんとした道場を後にして、お満は母屋に向かった。
「先生、ただいまお稽古から戻りましたあ」
玄関先に元気よく響くお満の声を聞いて、中からにこやかに微笑む瓶之真が現れた。
「おお、丁度よい。今、竿之介と夕餉を摂っていたところじゃ。ささ、お満も入れ入れ」
招かれるままに中に入ると、食膳を前に座っている竿之介の姿が目の端に映った。しかし、それも一瞬の事、特別稽古で空腹を覚えたお満は、食膳に並ぶ夕食の献立に気が取られた。
「賄いのお熊は夕餉の支度が済めば家に帰るのじゃ。じじばばの世話があるでな。なので、自分の給仕は自分でするがよい」
「あい」
お満は古ぼけた茶碗に麦の混ざった飯をよそい、まだ温かさを保つ汁をお椀に掬った。食膳に置かれた菜は、目刺と香の物だったが、貧乏武家育ちのお満にとってはそれだけで充分な贅沢さだった。
「いただきまする」
菜に目を奪われていたお満だったが、手を合わせた拍子に向かいに座る竿之介の様子が目に入った。
竿之介は手にした茶碗を今にも落としそうなほど、うつらうつらとしていた。これにはさすがのお満も放ってはおけない。お満にはお敏に代わって、竿之介の躾をしなければという自負がある。
「これ、竿之介、お行儀が悪い」
竿之介はお満の声にも反応せず、手にした茶碗がポトリと落ちた。
「ははは、まあよい。今日の稽古によっぽど疲れたのであろう」
自分の思惑通りに竿之介がクタクタになったので、瓶之真の機嫌はすこぶる良かった。
「今宵は特別じゃ、どれ、師が寝床に連れていってやろう」
「あっ、先生、あたしがいたしまする」
瓶之真が竿之介の脇に肩を入れて抱え上げる様子にお満は慌てた。
「よいよい、お満は夕餉をたっぷり摂って体力を付けるのじゃ」
「で、でも…」
「これこれ師の言う事を聞かぬか。おぬしにはまだ特別稽古の続きが残っておる。ほれほれ早く食してしまえ」
「えっ、まだお稽古をするのですか?」
吃驚したお満は師に聞き返した。
「ああ、お満の特別稽古は今からが本番であるぞ。これはお満だけにしか教える事が出来ぬ秘密の稽古じゃ。だから昼間には教えてやる事が出来ぬのじゃ」
「お満だけの秘密のお稽古」
それが一体何なのかはわからないが、疲れているにも関わらず稽古を付けてくれるという師の言葉に、お満は従うしか無かった。
「わかったか?」
「あい、わかりました。お満は秘密のお稽古のために、夕餉をいただきまする」
お満はあらためて食膳に着くと、目の前の目刺にかぶり付いた。
「美味しい〜」
食事に夢中になったお満は、もう竿之介の事は念頭になかった。
「お漬物も美味しい〜」
その様子を見た瓶之真はニヤリと笑みを浮かべると、抱えた竿之介を長屋に運んだ。手っ取り早く母屋に寝かしてしまおうかと思ったが、後々の行為の事を考えると、母屋に竿之介が居ない方が良かった。道場と母屋は近いため、稽古の雰囲気が母屋に寝かした竿之介に伝わってしまう事は避けたかった。
瓶之真は始めから母屋でお満を押し倒そうとは考えていない。露骨に男女の関係を迫ってしまうと、お満に逃げられてしまう可能性もある。
何よりも数々の自慰行為の最中で、今までに一番多かった妄想が、初な女を道場内で稽古を付ける事だった。
もちろん、普通の稽古では無い。指導と称した淫らな稽古で、何も知らない初な女体をたっぷりと甚振る妄想をしながら日々シコシコと扱いていた。
そんな妄想を叶えるのには、お満は最高の素材だった。とにかく師の立場を最大限に利用して、稽古にかこつけて色んな淫らな事を無理強いしようと思っていた。
「ひひ、あの女体にあんな事やこんな事をしてやるわい。かわらけの割れ目はどうやって甚振ろうかのう」
妄想が遂に叶う時がきた。竿之介を運ぶ瓶之真の股間は、さっきから膨らみっぱなしだった。