お満に忍びよる影-2
お満の頭から稽古の事は吹っ飛び、愛液が溢れる割れ目に中指を這わした。クチュリと割れ目にのめり込んだ指を、卑猥な曲線に合わせて軽く曲げ、その指をクイッと一気に引き上げた。指先が敏感な秘豆を擦った。
「あああん、だめえええ、逝く、逝く、逝くううううううう」
その絶頂の卑猥な声は間隔を開けて何度も響き、その都度長屋の床に愛液の染みが広がっていった。
こうして瓶之真以上にスッキリしたお満は、ようやく特別稽古のために神社に向かったのだった。
神社に着いたお満は、書付の通りに無事に参拝を済ませた。そしてもう一度書付を確認してから、少し先にある中村一座の芝居小屋に入っていった。
芝居の途中から入ったため、お満にその芝居の内容はわからなかったが、その華やかさに一瞬で心が奪われた。
時々、観客の中から「柏屋〜!」と掛け声が上がるのを聞いて、お満も真似てみたくなった。
「柏屋〜!」
芝居小屋に響くお満の可愛い声に場内が沸いた。気を良くしたお満は、独特の間の事も考えもせずに「柏屋〜、柏屋〜」と連呼し続けた。
しかし、その掛け声は偶然にも見事に的を射ており、芝居通を自負していた江戸ッ子達を呻らせた。
そんなお満の掛け声に、演じ手の六代目中村勘三郎の気を良くさせた。六代目の演技は一段と冴えわたり、この日の芝居の出来の良さは、芝居通達の後々の語り草になったほどだった。
そんなお満を、最後尾の席からじっと見つめる男がいた。しかし男は、お満の掛け声に感心して見つめていた芝居通ではなかった。その男はお満が神社に向かう途中からお満を付けていたのだ。
「やはり間違いない。あんな恰好をしているが、あの声は…」
その男の目に、髪を束ねたお満の項が映り、股間がもっこりと膨れ上がった。
「うう、来た…」
その者の表情に、喜びと不安が合わさった複雑な色が浮かんだ。
芝居が終わり、お満はその余韻を噛みしめながら芝居小屋を出た。しかし、お満は何を勘違いしたのか直接道場に帰らなかった。
「え〜っと、三…笠屋さんだっけ?うふふ、先生ったらお稽古の一つを書き忘れていらっしゃるわ」
三田屋の豆餅を食べたので、三笠屋の饅頭は省かれた事をすっかりと忘れていた。
お満は神社の裏手にある三笠屋に行くために、人通りの少なくなった寂しい神社の境内に入って行った。
神社に入った途端、芝居小屋での楽しさを思い出した。
「よっ!柏屋!よ〜、かしわや〜、かっ、しっ、わっ、やっ!カッシーWAYAYA!SAPPAWAYAYA!」
お満はその掛け声を口に出しながら、暗い境内を楽しげな足取りで歩いた。
その隙だらけのお満の後から黒い影が忍び寄ってきた。芝居小屋でお満を窺っていた男だった。
「しめしめ、ここなら引っさらっても誰も気が付くまい」
男はお満に手の届く範囲に近づくと、懐に忍ばせた匕首に手を触れた。そしてもう一方の手を、お満の口を塞ぐためにそうっと伸ばしてきた。
その手がお満に届く寸前、突然2人の後ろから声が掛った。
「ちょいと、そこの人」
そのよく通る声にお満は振りクルリと向いた。突然の事にお満の後ろから忍び寄った男は、ぎょっとして動きを止めたが、伸ばした手だけは所在も無げに宙を彷徨った。
しかし、お満は声を掛けてきた男の方に気を取られて、挙動不審な男のそんな動きには全く気付いて居なかった。