「アルデンテに勃ってみて♪」 -5
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さっきから厨房が騒がしかった。
「加減はこれでいいんだ。よけいな口出しはするな」
『それじゃあダメです。もっと芯が残っていないと』
シェフとビアンコが言い争っていた。遅番のあたしは、そのもめ事のいきさつを同僚から聞き、パスタの硬さをめぐっ ての口論だとようやく理解した。
一度ビアンコのスパゲティを食べたことがあるが、確かに本場仕込みの麺ではあった。でも、一般的な日本人には本 格的すぎて少し硬いかも……、とあたしは思っていた。
「おお、とま子。ちょうどよかった。おまえはどう思う? ビアンコのパスタ」
シェフが荒い鼻息を吹きかけてきた。
「あたし?」
戸惑ったが、素直に自分の感想を口にした。そうれ見ろ、と言わんばかりのシェフの顔。
『そんな馬鹿な。とま子さん、あなたともあろう人が味覚に鈍感だとは』
ビアンコは大仰な身振りで落胆を表した。 『身体はあれほど敏感で、何度も何度もエクスタシーに……』
「ちょっと。こんなところで何言うの?」
顔から火が出た。いや、隣でシェフの顔が、あたし以上に赤みを増していった。え? これって嫉妬の怒り?
「このっ、人の女に手を出しやがって!」
殴りかかろうとするシェフを皆で必死に抑えつけた。騒ぎを聞きつけてやってきたオーナーが料理でかたをつけるよう にと言いくるめるまで人が変わったようだった。ああ、シェフにもこんな面があったのね……。
その後、馴染みのお客様方を対象に、シェフとビアンコの腕の競い合い、スパゲティの食べ比べが催されたが、僅差 でシェフが勝ち、何とか面目を保ったの。
おさまらないのはビアンコのほう。店が終わってからシェフにもう一度手袋を叩きつけた。
『パスタ料理ではあんな結果になったが、女を料理するのならこっちが数段上さ。何なら試してみるかい?』
挑発されて引っ込んでいるシェフではなかった。何しろ昼間の勝利が背中を押した。
「受けて立とう。で、勝負の方法は?」
翌晩、あたしはビアンコとベッドの中にいた。明日はシェフと寝るのだ。二人の勝負の方法は、あたしを抱いて、 どっちが深く満足させるか、というものだった。あたしの感想だけでは心許ないのでアルファー波を測定出来る器械を頭に装着してのセッ クスとなった。
「こんなの付けてちゃ邪魔でしょうがないよう」
ぶーたれてみたけど、アルファー波は楽しい事に没頭している状態を示す脳波であり、勝負の公正を期すためには絶対 必要だ、と男どもは言い張った。
さて、ビアンコとのメイク・ラブ。初めのうちは頭の器械が気になったけど、たんねんな愛撫を受け、肉の延べ棒で オマ○コを突っつき回されているうちに測定器の存在など忘れてしまった。ていうか、ビアンコの張り切り方が違うので、いつも以上に感 じてしまった。
「あああん。もっと奥、奥突いてええ!」
忘我の境地。測定は、どうだったのかな?
翌晩はシェフとのベッドイン。最近はフニャチン気味のシェフだったが、その夜はカチンコチンの元気溌剌。製薬会 社のドリンクを半ダースくらい飲んできたに違いない。念入りな前戯、本番でのハッスルぶりに、昨夜のように淫夢の異境へと飛んでいっ た。
「んあああ。もっと腰、腰振ってええ!」
前後不覚。測定器は、どう反応したかな?