仮住まい-5
目覚めるとまた雨が降っていた。晩秋を迎える冷たい雨である。
奈緒子はまだ寝ている。二人とも裸である。エアコンの暖房を入れ、上だけパジャマを着ると宮棚を背凭れにして煙草を吸った。
寝息を立てている奈緒子の顔を見つめた。美人ではないが、知性を感じさせる面立ちである。それに、言葉では表現し難いが、いうなれば、人の生活を地道に歩んできた素直な落ち着きというものが感じられた。
昨夜の求め合ったひと時、奈緒子は燃える体を一方的にぶつけてはこなかった。神谷の体と共に溶け合うように性急な燃焼を抑えていた気がする。
「疲れてるでしょ?」
「いや……」
完全に復活しない『彼』をやさしく含み、微妙な刺激に包まれて口腔は膣のごとく蠢いた。
ようやく可能になって奥深く結ばれたが、神谷は間もなく果てた。
(奈緒子は達しなかっただろう……)
それでも彼女の至福に満ちた表情に彼の心は潤った。温かく、沁みた。
二本目の煙草を吸っていると奈緒子の目が開いた。
きょとんと神谷を見上げ、布団を上げて顔を隠し、目だけ覗かせた。
「ずっと見てた?」
神谷が笑うと、
「恥ずかしい……起こしてよ」
「よく寝てたから」
時刻は九時を回っている。
「こんなに寝たの久し振り……」
半身を起し、乳房が現われた。
「パジャマどこかな」
布団を捲くった奈緒子を抱き寄せた。
「あん……」
甘えた声を洩らして女体がわずかにのけ反った。
不意に勃起したのである。昨夜とは比較にならない漲り方であった。
奈緒子は黙って神谷の胸に凭れた。しばらく抱きしめていた。
「雨ね……」
「止みそうもないな」
「外に出ないからいいけど……。あ、買い物に行かないと。食べるものちょっとしかない」
「あとで行こうか」
「うん」
「静かでいい所だよね」
「でも、一人だと淋しい……」
(そうかもしれない……)
それに、都会の喧噪から逃れて静寂に浸る余裕など自分にはない。だが、いま、平安に似た穏やかさを感じるのは奈緒子がいるからだろう。
「たまに、来ない?」
奈緒子が目を向けずに言った。
「いいの?」
「一緒なら怖くないから……」
乳房を揉む。奈緒子の息が弾み出した。
「いずれ退職して、仕事辞めたら、ここに住もうかなって思ってたけど、一晩で無理って思った」
「変な奴が来るし」
「また、意地悪……」
都会の中での孤独も辛いが、自然に囲まれていても一人は一人だ。
「どこに住んでも同じかしらね……」
どういう意味を含めて奈緒子が言ったのか、神谷はわからず、黙っていた。ふくよかな彼女の肉体がたしかな温かさを伝えてくる。
下腹部に手を這わせて、裂け目に指を差す。
「うふん……」
蜜が絡まる指をゆっくり動かした。彼女の手が屹立を握った。そして神谷の上に跨ってきた。
「おはよう……」
微笑んだ後、握って口に頬張った。いったん抜き、
「ここも、おはよう」
すぐに跨って自らあてがい、間を置かずに腰が沈んで、埋め込まれた。
「着けたほうがいいよ」
「このまましたい……」
「出る時、言うよ」
奈緒子は頷いてから、
「出してもいいよ……」
浮かんだ笑みは消え、恍惚の表情へと変わっていった。
どこに住んでも同じ……。その時誰がそばにいるか、一人きりか。しかしいつか、何かが壊れて消えていく。
(仮住まいと思ったほうがいい……)
そう思いながら、奈緒子を抱き寄せ、
(やり直してみようか……)
本気で考え始めていた。