ドウテイ脱出への道-1
◇ ◇ ◇
「遅いねー、歩仁内くん」
肩に掛けていたカゴバッグからスマホを取り出した沙織は、時間を確認してからそう呟いた。
ジリジリと照りつける太陽、そんな夏の日差しに晒された沙織の太ももがやけに眩しくて、目がくらむ。
長い髪をアップにして、露になったうなじ。デニムのショートパンツからニョキッと伸びた白い太もも。そしてタンクトップから覗く、細身にしてはやや大きめの、柔らかそうな胸の谷間。
そんな無防備な沙織のカッコを横目で見ながら、俺は密かにゴクリと生唾を飲み込んだ。
――今日、俺は童貞を捨てるんだ。
どうして、こんな展開になったかと言うと、だ。
こないだ、実は童貞であることをついにカミングアウトしてしまった俺。
その時の修と歩仁内の引きつった顔ったら、今でも忘れられない。
付き合ってもうすぐ一年になるってのに、彼女に全く手を出さないってのは、健康な男子高校生からすれば異常以外の何者でもない、と。
そんなのは俺が一番よくわかっている。
だけど、好きだから臆病になるんだ。
俺だって健康な男子高校生。エロいDVDなんてしょっちゅう観るし、童貞を捨てたい気持ちは当然ある。
でも沙織に対しては、ずっと憧れていたこともあって、彼女をそういう性の対象に見ることに抵抗があった。
沙織という存在は、俺にとって天使そのもので。
俺の名前を呼んで、ニコッと八重歯を見せて笑う顔なんて、こんなに愛らしいものは他にないってくらいなんだ。
だから、怖じ気づいてしまうのだ。
俺が彼女を汚していいのか、と。
ヤりたい気持ちとそんな迷いが交錯するままに付き合ってきた。
けど、このままの状態が続けば女の子の方から愛想を尽かされるパターンもあると、修と歩仁内との会話から知ってしまった俺。
沙織に嫌われたくない一心で、ついに俺はコイツらに今まで隠していた“童貞”という秘密をカミングアウトしてしまった、というわけ。
非童貞のお二方には、さぞバカにされるんじゃないかとビビっていたら。
ニヤリと怪しい笑みを浮かべた修と歩仁内は、何やら二人で目配せをしたかと思うと、
「オレらに任せとけ」
と、なんだか面白いネタを手に入れたと言わんばかりに、そう自信たっぷりに言い残したのだった。