ミルク茶-2
『はい、あげる。ミルク茶』
彼女の口から懐かしい言葉が出てきて嬉しくなる。
『なに?お前まだミルクティーの事ミルク茶とか言ってんの?』
『なんで?いいじゃん。てか━ミルクのお茶だからミルク茶じゃん』
彼女が少し怒った様にミルク茶を手でいじりながら言った。
『そんな俺も、実はミルク茶』
彼女に自分が買ったミルク茶を見せる。
それを見て彼女は子供のように笑った。
幸せとはこうゆう事を言うのかと何度も自分に確認をした。俺と彼女が吐き出すそれぞれの煙はそれぞれ風に乗って消えていった。
『おい!』
2人の間に1つの叫び声が割って入ってきた。何事かと思ったら、目の前に止まっていた車から男が1人降りてこちらへ向かって来る。
『…ヤバ…』
彼女は小さく呟いた。
『お前、こいつのなんやねん』
その男は俺の目の前に来ると同時に見下ろし言った。
なにがなんだかわからない俺の代わりにか、彼女がとっさに口を割る。
『この人は、今ここで偶然会った中学時代の友達や。なんもあらへん』
そう言うと、俺も『そぅ、友達やんな』と答えた。
男は黙って2人を眺めた後、
『そぅか、友達やったか』
と言って笑い出す。
『そぅや。つーかな、うちが誰と会ったってかまわへんって言ったのどこの誰や』
『いや、あれは、つい頭に来て…』
『あんたがうちのミルク茶勝手に飲むからやろ?!なんであんたが怒らなかんの』
『だからそれは悪かったて…ぁ、お前またそんなにミルク茶買うて』
呆然とする俺の前でなにやら、揉めている。どうすれば…
すると、男は俺に気が付いて、彼女の肩に手を置いて言った。
『ホンマにすんませんでした。こいつ、腹に子供おんのに煙草とミルク茶やめへんし、こうやってすぐ怒るし…ぁ、これ良かったら1つどうぞ』
男は彼女の袋から新しいミルク茶を取りだし、俺に渡した。
外見とは全く違う礼儀正しい男に俺は何故か男として負けたと思った。
落胆している俺に、
『ごめんね、実は明日京都に嫁ぐの。この人の実家。独身最後の夜にあんたに会えてよかったよ。じゃぁね』
俺は、帰り道バイクを思いきり走らせた。自分の涙に気が付く前にと。彼女からもらったミルク茶とへんな関西弁、そして、5年経った今でも愛していた事。すべてを涙に変えたらこのミルク茶は飲み干せるような気がする。