瞳の初恋日記-7
10.
「瞳ちゃん、お風呂使って・・・」
瞳は、帯を解いて着物を脱ぐと、バスルームに向かった。
雅彦は、脱いだ着物をそっと手に取り、明かりに透かしてみた。
腰巻の裏に、愛液のしみが付いている。腰巻の赤い色で目立たないが、ティッシュでふき取ってみると、愛液に赤いものが混じっている。出血は少なかったようだ。よかった。
長い間待ち望んだ瞳との再会に、瞳が純潔を守って雅彦を待っていてくれた。愛しさが、胸に込み上げてくる。幸せにしなければ。
瞳と交代に、雅彦も風呂を使った。
バスタオルに包まれたまま、二人はベッドに倒れて抱擁した。瞳は、雅彦の腕枕で、胸に頬を寄せている。
「瞳ちゃん、せっかくの着物を台無しにしちゃったねえ」
「ああ、それはいいのよ。見た目は良いけれど、イベント用の仕事着なの。水で洗えるのよ」
「そうか、心配しちゃったよ。こういうイベントってよくあるの?」
「よくでもないけど、大学の先生や先輩に頼まれたりして、時々ね」
「瞳ちゃん、改めてお願いだけど、僕の奥さんになってくれますね」
「はい」
「僕は名前だけが先走って、画壇のしきたりや商売の仕方がまったく分からないんだ。瞳ちゃんが僕の傍に付いていてくれたら本当に助かる。
瞳ちゃんに会ったら、結婚を申し込む積もりでいたんだ。いやあ、別に便利だからじゃなくて、あの山中湖以来、ずっと瞳ちゃんのことを想ってきたし、妹にも瞳ちゃんの消息は聞いていたからね」
「私も待っていた甲斐がありました。不束ですが、末永くよろしくお願いします」
「早速だけで、東京のあと、スペインのセビリアに行く予定をしているんだ。あそこで、ジプシーとフラメンコの絵を描きたいと思っている。一緒に行ってくれるかなあ」
「もちろんです。雅彦さんと、スペインに行かれるなんて、夢のようですわ」
「僕は、いろいろな民族の文化に興味があってねぇ、セビリアのあとはアルゼンチンのタンゴとか、その場所に住みながら、製作活動を続けていく積りなんだ」
待ち望んだ雅彦との再会、愛の契り、世界に羽ばたく未来、これは夢にも見たことのない現実の出来事。夢ならば、永久に覚めないで・・・。 瞳は、こみ上げる涙を抑えきれず、雅彦の胸に顔を埋めた。
終わり