瞳の初恋日記-2
3.
その夜、瞳はベッドの中で眠れぬ一夜を過ごした。
生まれて初めて、異性との親しい接触、初めて飲んだアルコール、雅彦との口付け。
瞳の脳の中で、全てが一瞬のうちに巻き起こり、順序不同の走馬灯のように駆け巡る。
(ああ、どうしよう。赤ちゃんが出来たらどうしよう)
奥手に超の付くほど初心な瞳は、男女のキスで子供が生まれるものと信じていた。
赤ちゃんが出来たら、学校は退学。何もかも滅茶苦茶になってしまう。雅彦さんは好きだけど、いま赤ちゃんが出来たら困る。
思い余った瞳は、両親の目を盗んで、雅彦の妹の千絵子に電話をした。
しどろもどろに説明をする瞳に、千絵子は大笑いした。
「馬鹿ねえ、キスしたって赤ちゃんなんて出来るわけないでしょう。瞳は、コウノトリが赤ちゃんを運んでくると信じているんじゃないの」
千絵子の返事で、瞳は一先ず胸を撫で下ろした。
夏休みも終わりに近づき、瞳は宿題の片付けもあって、先に東京の田園調布にある自宅に帰った。
家で飼っている秋田犬の朝の散歩は、瞳の仕事だった。
手綱に引かれて早足で歩き回ると、軽い汗をかく。 乳首がシャツに擦れてムズムズする。
そっと指先で擦ると気持ちがいい。今までに経験のないことだった。
朝、瞳は、初潮を見た。お腹が病気になったと、瞳はびっくりした。
母親は、「瞳、 お目でとう、今夜はお赤飯ね」といって、ニコニコしている。
その夜、瞳は自分の部屋で、母親と2人で向き合った。こんなことは、生まれて初めてのことである。母親から、女性の生理、男女の生殖の役割などを聞かされて、自分の無知振りを思い知らされた。
瞳は、高校を卒業すると、女子美術大学に進学した。 小学生のころから絵が好きで、学校の先生からもよく褒められた。親も絵の塾に通わせてくれて、将来は絵を専門にしたいと考えていた。
大学の成績もよく、卒業前に女性新人作家賞を受賞する程だった。 とはいっても、描いた絵を売るだけで生活が出来るほどの収入は得られず、近所の子供を相手に絵画教室を開いた。
4.
千絵子から、電話が入った。兄の雅彦が東京で個展をやるので、手を貸して貰えないかないかと言うのだ。
(雅彦さん)
名前を聞いただけで、胸が高鳴り、顔が火照った。切ない。
山中湖畔のあの夏の夜の雅彦との出会い。
雅彦との口付けで、一時とはいえ雅彦の子供を身篭ったと錯覚し、自分の無知と知った後になっても、雅彦は忘れがたい男として、瞳の心に住み着いていた。
林の中で雅彦の腕に抱かれ、その指が乳首に触れ、熱い頬が乳房を覆い、そして、口付け。
夢うつつのうちに、雅彦の指が身体を探っていたことに覚えがあるが、その指の動きが優しかったことだけが、記憶に残る。
高校生になると、胸の膨らみはブラジャーからはみ出すほどになり、ブラジャーを外してベッドに入ると、つい指先が乳首を摘んでしまう。
乳首から発信した疼きは、下腹部を経てクリトリスに届く。乳首とクリトリスの間を疼きが往ったり来たり、瞳は、片手で乳房を、片手でクリトリスを押さえて悶えた。
(ああ、雅彦さん)
瞳にとって、唯一の男性は雅彦。湖畔で取った記念写真から、彼の写真だけを引き伸ばし、枕の下に隠してある。
写真を枕の上に取り出して、頬を寄せる。
(ああ、雅彦さん。私はどうしたらいいの。貴男を思うと、こうせずにはいられない。雅彦さん、山中湖のあの夜のように、貴男の腕に抱かれて、雅彦さんの手で、指で、瞳を愛して欲しいの)
いまや、しっとりと小丘を覆う草むらを掻き分けた指先が、クリトリスに届く。
くにゅ〜くにゅ〜くにゅくにゅ
疼きの昂まりにつれて、乳首は熱をもち、勃起したクリトリスの先端が震える。
(雅彦さん、もっと強く、もっと強くぅ)