トモキ 2nd Story-9
電話の相手が嵩原さんだと判り緊張が緩んだ俺は煙草に手を伸ばし、火を着ける。
煙草は吸い始めた13の時からずっとパーラメント、他の煙草への浮気も無い一途な俺。
体に煙草の煙を染み渡らせる様に深く吸い込み、嵩原さんの言葉に耳を傾ける。
<最近キリシマが仕事中上の空だって俺と小室で心配してたんだ。ケド今日は随分頑張ってくれたみたいで安心したよ!>
小室とは俺の後輩にあたる同じ店舗スタッフだ。本当は考え事に夢中になりすぎて時間を把握いなかった為に、夜中近くまで倉庫整理をしてしまったのだが、この事はあえて伏せておく事にした。
<ケドなんか悩みごとか?!俺みたいな年寄りがキリシマの相談にのれるかわかんねぇけど、何か力になれることがあるなら言ってこいよ!!>
俺と3つしか変わらない嵩原さんが自分を年寄り扱いするのがおかしかった。
「ははは!実は俺病気なんです。」
おどけて言ってみせた。しかし嵩原さんは真面目に受け取ってしまったらしく
<なんだって?!病院には言ったのか??!>
そう本気で返してきた。
「病気じゃ治らないんすよ、恋の病らしくって…。」
今度は嵩原さんに合わせ深刻ぶって答えた。すると受話器の向こうから何かを吹き出す音が聞こえてきた。
<ブ――――ッ!!なんだよそっちかよ?!まぁそっちの悩みは悩み抜いた方がいい結果がでるさ!>
そう言って嵩原さんは電話を切った。
俺にとって嵩原さんはいつも頼りになる兄貴の様な存在だった。俺が何か失敗をやらかせば必ず俺をかばい、きちんとフォローまでしてくれた。何店舗もあるウチの系列店の中で最年少でチーフになったヤリ手であり、俺はこの人の下で働ける事が嬉しかった。いつか必ず今までの恩返しをしよう、そう思いながら短くなった煙草の火を消し再びベッドへ横になる。
どれくらいの時間がたっただろうか…。
少しの間うとうととしていた俺は再び鳴ったケータイによりまどろみの中から引き戻された。
―今度こそハツミ?!
しかし俺の期待はまたもや裏切られる事となった。
<キリシマぁ〜!悪い!用件言い忘れたよ。>
時計を見ると、さっきの電話を切ってから7〜8分経っていたようだ。
<実は明日小室が休む事になってさぁ。だからキリシマ、明日は朝から出てくれないか??今日遅かった分明日は夕方で上がっていいから!頼むっ!!>
そう一気に吐き出すと嵩原さんは俺の返事を待つ事なく電話を切った。つまり強制的に明日は朝から仕事に出なければならないということだ。
「マジかよぉ〜」
思わず誰もいない部屋で叫んでしまった。
明日は本来なら夕方からの仕事だったから、昼間はずっとハツミからの電話を待つ気でいた。
―こうしちゃいられない!!
明日が朝から仕事になったと言うことは、明日に備えて早めに睡眠を取らなくてはいけない!手早くシャワーを済ませ、就寝の準備を始める。一度は気分良くうとうととしていたのに今ではすっかり眠気が覚めてしまっていた。なので少しでも眠気を誘おうと冷蔵庫からビールを取り出す。
缶を一気に飲み干し、ベッドに腰を下ろすと三度ケータイの着信音が鳴り響く。
―また嵩原さんのいい忘れかぁ??
そう思い俺はケータイに手を伸ばす。そしてサブディスプレイに目を向けるとメモリーに登録されていない事を表す番号だけの表示。
記憶を辿るとこの番号はハツミへのメッセージを残した時に俺がかけた番号だ!今度は間違いなくハツミからの返事だった。