本当の優しさ-10
「馬鹿野郎っ!!」
その夜、私は案の定、父に思いっきりひっぱ叩かれた
あの後大家さんの通報により、阿久津と呼ばれるあの男は、警察に身柄を拘束され、私はパトカーに乗り、無事保護された。
「まぁお父さん、こうして本人は大きな怪我も無く済んだんですから」
「ですけどっ!」
怒りの収まらない父、当然だ、こんな事は初めてだお互いに。
「でも、君も君だよ?男の話だと「大金をやるから付き合わないか?」って誘われ男の部屋について行ったそうだね…」
「…。」
見つめる警察官に対し目を背け。
「全く金欲しさに、何か欲しかったものでもあるの?高級バックだの、ハイヒールだの」
「違いますっ!私は、私は彼の為に…ちゃんとしたリハビリ看護師を呼んで、そして元気になって欲しくて…、私だってこんな事したくなかった!悪い事だって解ってた!怖いし
親を裏切って、でもっ!バイト先は見つからない、ぐずぐずしてたら彼はどんどん…」
誤解を解き、洗いざらい全て彼らに話し、目は真っ赤になり。
「!!」
それを聞いた父は、咄嗟に絆の事を思い浮かべ。
ちょっと意外な動機に、お互いの顔を見合わせた警察官達。その後父は何度も警察官に頭を下げ、再び何時もの住宅街の姿に戻り。
重苦しい空気を漂わせ、自宅の居間に戻る私達。
「……はぁ」
「おとう、さん」
私はとんでもない事をしてしまった、こんな事到底許せるはずが無い。
「御免なさいっ!私」
「杏…」
「!…」
「お腹空いたろ?今ささっと作っちゃうから、今のうちに風呂に入っちゃいなさい」
「お父さん!」
そう言い放つ父の顔はとても穏やかだ。
「でも、私…」
「良いんだよ…もう過ぎた事だ、それにお前が無事で本当に良かった」
「……」
「でもっ!あんな事はもう二度としないでくれっ!警察から電話が来て、「男にわいせつされた」って聞いたときは全身青ざめたんだからなっ!お前の顔を見るまでは車の中で
どんなに無事で居て欲しいと願ったか…」
「うん、ホントにっ!」
「さっ、風呂に入ってきな、気持ち悪いだろ?まだ嫌な感触が残っているだろうし。」
一安心し、浴槽を目にすると、常温でラベンダーの良い香りが。
それはまるで私の凍りついた心を解きほぐす物のようだった。
そんな風呂場へ向かう娘の背中をジッと見つめる父
「…そうだ、お前は悪く無い。悪いのは娘をそこまで追い込んだ…」
父の中で暗雲が広がり、絆への憎しみの業を静かに燃やし。