ン-1
「どうしよう。里香。
この前した『俺たちの』ファーストキスよりドキドキしてる」
蒼くんの部屋にきてドアを閉めたとたんに
そっとキスをされ、そのあとぎゅっと抱きしめられた。
「私も」
「俺、キスがこんなにドキドキするなんて知らなかった」
前に蒼くんは「キスなんてセックスに持ち込むための過程」と
冷たく言った。
そんな人と同じ人だとは思えないほどに
顔は赤くなっていて
「両想いのキスってこんなに甘いんだ」
そう言って何度も何度も
触れるだけのキスを繰り返した。
口の端から鼻の頭。
そして瞼。
蒼くんの甘いキスは私の顔じゅうを埋め尽くした。
「里香」
耳元でささやかれるそれは、キスに負けないぐらい甘くて。
「俺の里香」
切ないぐらい優しく囁かれるその名前は
紛れもなく私の名前だ。
「私の蒼くん」
私のモノだと確かめたくて
ぎゅっと蒼くんのTシャツをつかむ。
どこにも行かないで。
私だけのモノでいて。
カウントダウンを数えないで。
優しかったキスが唇に戻って
舌が唇をこじ開けた。
深くなっていくキスにお互いの呼吸が乱れて行く。
必死で崩れないように蒼くんにしがみついた。
そんな私に気付いた蒼くんは小さく笑って
「ベッドに行こうか」と
私を数歩先のベッドまで抱きあげた。
「蒼くん。カーテン」
レースのカーテンだけの部屋は明るい日差しが入っていて。
2階の部屋は誰から見られる心配はないのだけど。
その明るさはさすがに恥ずかしい。
「里香がいやだったら、次からは暗くするから。
ごめん。今日だけ。このままで。
里香と本当に恋人になってセックスしてるんだって感じたい」
そんな事を言われれば
いやとは言えなくて。
「今日だけ」
とOKを出してしまう。