その1 ちちろのむしと出会ひけり-11
「なあ、お鈴、おまえのおかげで私塾は大繁盛だ。こうして毎晩いい酒も飲める」
秋の夜長、瑚琳坊はほろ酔い気分でお鈴の酌を受けていた。
「だがなあ、おまえはいつまでここにいてくれるんだ? ご恩返しということだが、まさか明日になったら、これ でもう十分恩は返しました、さようなら……ってことはねえだろうな」
お鈴は一瞬固まったが、おだやかに微笑んだ。
「そのようなことはございません。まだしばらくここにおります。ただ……」
いつしか男衆の間で手習い小町と呼ばれるようになった美しい顔が微かに曇った。
「ただ、いつまでもこうして、あなた様の代わりに手習い師匠を務めるわけにはまいりません。このままでは瑚琳 坊様が遊蕩にのめり込んでゆくばかりでございます」
「あ、いや、そんなことはないぞ……。おれは今、見聞を広めるために色々と出歩いているんだ。けして遊蕩な ど……」
お鈴はゆっくりと首を振った。
「このままでは、あなた様を堕落させてしまいます。やはりここが潮時かと……」
放蕩の味に首まで漬かっていた瑚琳坊は、困ったことになったぞと思った。
「今おまえが師匠を辞めると、せっかく集まった手習い子たちが、みんな逃げちまうぜ」
「……それはそれで、仕方のないことです。私はまた、お針子でもいたしましょう。あなた様は以前のように、十 人ほどの子供に教えてやって下さいまし」
口調は穏やかだったが、後には引かない様子である。こういう時は寝技に持ち込み、裸に剥いてよがらせて、その まま黙らせてしまうのが瑚琳坊の常だった。だが、相手はちちろむしである。押し倒そうと浮かせた腰が躊躇して止まった。が、連日の酒色と 今宵の酒が彼をふらつかせた。倒れる身体を支えようと伸ばした手がお鈴の胸に当たり、そのまま倒れこんでしまった。
「瑚琳坊様!」
覆いかぶさった瑚琳坊は、お鈴の身体の柔らかさに驚いた。手の中で弾む乳房の感触に目を瞠った。しょせん虫 だ、見かけは綺麗でも、ごつごつした身体に違いないと考えていたが、この扇情的な触りごこちはどうだ。思わずお鈴の顔を見ると、大きく見 開かれた黒目がちの瞳が驚きと羞恥に打ち震えていた。ふと、初めて会った夜の彼女の裸体が脳裏をよぎった。小さいがお椀をかぶせたような 愛らしい乳房、桃と呼ぶにふさわしい美尻、あえかな陰毛に縁取られた清楚な女陰。
「お鈴!」
瑚琳坊の理性が吹き飛んだ。袷の襟を押し開き、肌襦袢の胸元を大きく割ると、仰向けでも形を保った瑞々しい乳 房が現れた。鼻息も荒く乳首に吸い付くと、お鈴の身体がピクンと跳ねた。
「瑚琳坊様、やめて、やめてくださいまし!」
懸命に身をよじるお鈴だったが、がっしりと瑚琳坊に押さえ付けられ、さながら海星(ひとで)に取り付かれた蛤 のように無力だった。瑚琳坊はぴったりと身体を合わせて乳首をねぶっていたが、その女体の素晴らしさに目を細めた。青白すぎる彼女の肌 は、ややもすると体温がないのではと思われたが、どうしてどうして、ほんのりと温かく、肌理の細かい皮膚は絹のようになめらかだった。顔 をそむけたお鈴は目をきつく閉じ、唇を引き結んでいたが、瑚琳坊が強く乳首を吸い立てると、「くうーっ」と喉の奥で小さな悲鳴を上げた。 少し固いが弾力のある乳房を揉みほぐすと、薄い背中を反り返らせて身悶えした。かなり敏感な娘だった。閉じられた目元がうっすらと朱を掃 き、耳朶がほんのり桜色を帯びている。