彼女を、支えるもの…-4
窓から日差しが差し込み、知らない医師の名がアナウンスで流れる何時もと変わりの無い
病室。退屈を凌ぐ意味でも絵を描く事は出来るだろう、担当医からもドクターストップは
出ないと思う。
でも今の僕はそんな気には慣れない。
ふと、昨日の事を思い返す。
杏が見舞いに来て、色々してくれた事を。
正直、彼女が顔を出しに来てくれても、嬉しくともなんとも無い、大好きだったあの明るい笑顔も、目障りに見えて仕方が無い。
あれから死のうと思う事は無い、かと言って胸を張って生きようとも思わない。
ただただ魂が抜け、何もする気が起きない。
どうしてこんな事に
僕は何をしたって言うんだ。
ふと、そう無意味に目の前の白い壁に視線を置き、ボーとしていると、ドアの向こうから
足音が。
また杏か、何時もほぼ同じ時間帯に見舞いに訪れる。
うんざりする、気が散るのもそうだが、何より今の僕何かと居ても彼女だって楽しくない
ただ傷つけるだけだ、だから僕何か放って置いて欲しい。
だが、そんな願いも虚しく無情にもドアは開き、足音がどんどん近寄っていき。
黙って顔を背ける、すると。
「…先輩っ!」
えっ。予想に反した男の声、その声に聞き覚えがあり、振り向くとそこに。
加藤君と鉢植えを持った伊藤サンが居て。
「先輩、大丈夫ですか、怪我の方は」
ベットの方へ更に歩みより、伊藤サンは黙って手に持ってた見舞いの品を棚に置く。
「あ、あぁ。今の所激しい痛みとかは無いよ」
「退院は何時ですか?」
置き終えた伊藤サンが、ふいに質問をしてくる。
「まだ分からないよ、これだけの怪我だから、結構掛かると思う」
僕の人事のような発言に、ムッと来た二人は、口を開き。
「何言ってるのよ、絵は?次のコンクールは?」
「そうですよっ!部活だって、部長の居ない二人だけの部活なんて」
美術部長不在で、部活動も泥沼を進むように鈍く、一部のクラスメートは「廃部だな」とか「あれ部活か?」と陰口を叩かれ。
「そう、だよね、ゴメン」
無責任な事を言った事に気づき、ベットに視線を落とす、すると彼らの口から意外な言葉を耳にする。
「まぁ、部活は良いですよ、何とかやってますし」
「そうね、ただ絵を描いてるだけだし」
「それは言わないでよ伊藤サン」
「ただ、何て言うんですかね、筆を握っても創作意欲が沸いて来ないんですよ」
「えっ?」
「何時も、情熱的に筆を走らせている絵画オタクさんが、居るべき席に居ないものだから
戸惑うのよ、まぁ私もだけど」
「伊藤サン、加藤君」
「今、先輩はどうしてるのか、一人で退屈してるんじゃないか、色々思い詰めているんでないか、そんな事ばかり考えて」
「駄目だよ、美術部員なんだから、絵の事を」
「美術部員である前に、僕ら親友でしょ?親友が苦しんでるのにおめおめ絵なんか描いて
られないでしょっ!?」
急にタメ口になり、あの温厚な彼が声を大にして言う。
「ここ、病院」
「すみません。兎に角先輩がそんなんじゃこっちもやる気何て出ません!」
「加藤君」
怒り心頭の後輩達、僕は何て駄目部長なんだろう
「駄目部長じゃないくて、駄目人間でしょう」
ううっ、伊藤サンのテレパシーによりナイフで心臓を刺すような言葉。
そんな重たい空気の中、聞きなれたビックボイスを耳にする。
「いやぁー、遅れてゴメーン。ちょっと買い物に行っててさぁー」
来た、何か色々手に持っているようだが。
「ってあれぇー?伊藤サンに加藤君、見舞いに来てくれたのー?」
「えぇ、まぁ」
そして彼女は水色の花束を棚に置こうとする、が先ほど伊藤サンが置いてくれた鉢植えを
目にし、「あちゃー」とでも言わんばかりに、目を開き、白い歯を見せる。
「何?」
「いや、素敵な花だなーって」
「持ち主に似て地味だなーって思ったんでしょ?」
「いや、そうじゃないけど」
伊藤サンは時より杏に突っかかる、僕への嫉妬とか
「ハッ!自惚れないで、誰が。ただちょっと彼女が眩しいだけよ」
眩しい、はて?
「絆ぁ、ほら見てぇ。私こんなに本を借りちゃったぁ」
そういうと彼女は、鞄から美術に関する本を僕の膝の近くに並べ出し。
「うわぁー、どれも興味をそそるなぁ」
「バカ、彼女はアンタの為に借りてきた訳じゃないのよ」
「ごめんなさいね、絆に合いそうな本を選んできたから」
僕の為に、でも嬉しくない、こういうのを逆効果何だろう、そんな僕の気もいざ知れず
三人で並べられた本を手に取り盛り上がり。
「入院してると大変でしょう、好みに合うかどうか分かんないけど、取り合えず読んで
時間を潰すと良いよ!」
「あ、ありがとう」
気持ちの篭ってない返事。
「あっそうだぁ、花束を花瓶に移し変えて水を入れないと」
「なら私も一緒に行くわ、鉢植えに水をやんないと」
「オッケー、加藤君、絆を頼むねー」
そう言って、自分達が持ってきた花を手に、病室を去っていき。