修行始まる-2
「皆の者、道場の清めは終わったのか!」
道場に駆け込んだ瓶之真は怒鳴った。驚いた門弟達はその場に直立不動で起立すると一斉に頭を下げた。
「はい先生終わりました!夕稽古のご指導お願いします」
その声に一拍遅れて、お満と竿之介も先輩門弟達に倣った。
「先生、今日からご指導をお願いしまあす」
門弟達は、遅れて頭を下げた2人と瓶之真を交互に見比べ、この2人についての師からの言葉を待った。特に見目麗しいお満の事が気になって仕方が無かった。
門弟達に見つめられては仕方がない。瓶之真は口を開いた。
「う〜、きょ、今日から共に稽古をする小股竿之介である。剣の修業は今日が初めてだが、皆は遠慮する事無くビシビシ扱いてやるように。竿之介、拙者の横に来て先輩達に挨拶せよ」
「はっ!」
瓶之真の手招きに、竿之介は数歩前に出て門弟達に振り返った。
「小股竿之介です。今日からこの道場でお世話になります。至らないところが多々ございますが、よろしくご指導をお願いいたします」
竿之介が頭を下げると、門弟一同が一斉に「おうっ!」と応じたが、本当のところは竿之介の事なんて、どうでもよかった。
「以上である。では素振り稽古始め!」
「い゛―――っ?」
瓶之真の言葉に、門弟一同は吃驚した。
「『い゛――』では無い、稽古始め!」
「せ、先生、もう1人の子の紹介がまだですよ」
「そうだそうだ!」
繰り返すが門弟達にとって竿之介の事などどうでもいい、それよりも可愛らしい女子の事が気になって仕方が無いのに、何も触れない瓶之真に不満を覚えた。
「そうですよう。せんせえ、あたしも今日からお稽古をするんですから、先輩達に紹介して下さいよう」
お満の可愛い声を聞いた門弟達は「そうだそうだ!」と更に勢いた。
「み、皆の者、こ、この者は稽古しないのじゃ」
瓶之真の言葉に、お家再興のために剣術を覚えようと思っていたお満は吃驚した。
「え〜〜〜、せんせい、それはないよう。お満もお稽古するう」
「し−っ、しっ、しっ、お、お満、ちとこっちに来なさい。他の者は稽古始め!」
瓶之真は道場の一角に設けられた畳敷きの見所にお満を連れて行き、耳元でごそごそと何かを耳打ちした。
「やあん、擽ったあい」
赤玉効果で全身が性感帯になったお満は、耳への刺激にへなへなと腰砕けになって喘いだ。
お満のなめかしい声を聞いた門弟達は素振りどころではない。門弟達の目は一斉に見所に集まった。
「こ、これ、妙な声を出すでない。な、何もしておらぬぞ!こら、おぬしらは早く素振りをしないか!」
慌てた瓶之介は門弟達に弁解すると、お満の目をキッと睨んだ。
「師の言葉をしっかりと聞くのじゃ。これは師の命であるぞ!」
照れ隠しのための瓶之真のキツイ言葉だったが、意外と大きな怒鳴り声に、お満はビクッと身を縮めて頷いた。
「あ、あい」
(か、可愛い…)
一瞬見惚れた瓶之真だったが、ブルブルッと頭を振って顔を気を取り直し、改めてお満の耳に口を寄せると、もう一度ぼそぼそと喋り出した。
「はあん…」
お満はピクッと反応したが、手をギュッと握りしめ、擽ったいのを我慢しながら師の言葉を聞いた。
「ぼそりぼそり…。という訳じゃ。お満、わかったか」
瓶之真の耳打ちが終わり、ホッとしたお満はニッコリ笑って頷いた。