淫魔の夜-10
お坊ちゃまが出かけた後洗濯や掃除をしていると女中頭のヤニーナが私を呼びに来ました。相変わらず黒い服を鶏がらのような痩せた体に纏って耳障りな声で私に命令しました。
「奥様がお前を呼んでいる。私と一緒についてくるがいい」
奥様に呼ばれるのは初めてのことなので、私は驚きました。この2年間言葉をかけて頂いたこともないのです。ときどき遠くから私をちらりと見て通り過ぎるようなことが何度かありましたが、このように呼び出されることなど初めてなのです。
連れて行かれるのは奥様のお部屋ということでした。別棟の2階にあって、そこに行くまでの道のりは私が初めて通るところでした。お屋敷の中がこんなに広いのだということを私は初めて知りました。そして通り道はお屋敷の中が殆どですが、途中見たことがない女中や召使とすれ違いました。もっとも彼らは女中頭のヤニーナに目礼するだけで私に目もくれようとはしません。
お部屋に辿り着くと奥様のタチャーナさまが待っておりました。ヤニーナが出て行くと奥様は私に近づき頬に手を当てられました。私はどきりと致しました。
「クララ、いつもアレックスの世話をしてもらってありがとう。お前はもういくつになったのだ?」
「はい、16才になりました」
「もう嫁に行ってもおかしくない年頃になったのね。美しくなったこと。肌も艶々して張りがある……」
「あの……奥様ご用というのは」
「アレックスはお前が気に入っているようだね。でもお前は誘惑しては駄目よ。良い? 間違いを起こしたらここにはおけない。それどころかお前はただではすまされないことになる。お前もそうなりたくないだろう?」
私は美しいタチャーナさまの蒼い目に見据えられると体が動かなくなりました。
「は……はい、奥様。私はここを追い出されたら行く所がなくなるので」
「だから、お前がアレックスを誘惑できないようにしてあげる。アレックスには決められた相手がいるのだから、お前が邪魔になってはいけないの。そのことについてお前は何か知ってる?」
私は奥様に何をされるのか恐ろしくなりました。それにしても奥様は私が何かを嗅ぎつけたのかどうか聞き出そうとしているのに気づきました。私は気づかない振りをしなければならないのだと悟りました。
「お坊ちゃまにお相手が? それは初耳でございます。お坊ちゃまは私には何も仰らないので」
「そう……じゃあ、お前は今のままでいい。でもその前にそのベッドに横になりなさい」
私はタチャーナさまの命令の逆らえずに奥様のベッドに体を仰向けにして乗ったのでございます。
すると奥様は私の唇を細い白い指先ですーっとなぞり、そして静かに顔を近づけて来ました。
「お前が男を覚える前に女を覚えるようにしてあげよう。アレックスを誘惑することがないように」
そしてタチャーナ奥様は私の顔に覆い被さるようにお顔を近づけて唇を重ねてきたのでございます。奥様の金髪が私の頬や耳に被さり、私は妙な気分になってしまいました。妙なというのは、なんとも甘美な心地よさを感じてしまったのです。
奥様は甘い声を漏らしながら長い長い接吻をして下さいました。身分の違う私に奥様がこんなことをするのは、やはり息子のアレックスさまが大事だからでしょうか? 私の体から力が抜けて奥様の思いのままになっていく感じでございました。
「女の体は女が一番良く知っているのよ」
そう言うと、奥様は私の髪を手でかきあげて耳に唇を当てて来ました。そしてふーっと暖かい息をかけて来たのです。私はぞくぞくとして背筋に痺れが走りました。それから首筋に舌を這わせ鎖骨の溝に唇を押し付けて水っぽい音を立てて啜り始めました。
すると何故か乳房の奥に不思議な快感が響いて、乳首が敏感になって来ました。タチャーナさまはどうしてわかるのでしょう。その次に私の胸元を開いて私の乳首を舌で弄び始めました。
「あっ……奥さま。そ……それは……は……あぁぁ……」