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淫魔の夜
【ホラー 官能小説】

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淫魔の夜-1

 私がアレックス坊ちゃまお付きの侍女としてお仕え致しましたのは、坊ちゃまが10才のときでございました。
 そのとき私は14才で、子守や女中として色々な所で働いた末、このお屋敷に拾われたのが始まりでございました。
 女中頭のヤニーナは年取った雌鶏のような女でいつも痩せこけた体に黒っぽい服を着ていました。
 ヤニーナは私をお屋敷のご主人様ご夫妻に紹介するとき、なにか品物を説明するような口調で言いました。
「これが前にもお話していたクララでございます。体が丈夫で鈍い子どもですから、かえって適任かもしれません。言われたことだけは真面目に馬鹿正直にするので、余計なことには首を突っ込まないと思いますし。あまり他の人間と親しくなる様子もありません。まあ、無愛想で無口ですから友達もできない。つまりこの欠点が今回お役に立つということで見つけて参りました」
 何故だかヤニーナは私のことをけなしながらご主人さまに勧めているようで、妙な気持ちになったものです。それは決して快いことではありませんでした。
 けれども私は物心ついた時から身寄りがなく、ここに雇われればようやく腰を落ち着ける場所ができそうな気が致しましたので、そういうことは気にしないように致しました。
 それにご主人さまのロードンさまと奥様のタチャーナさまはお優しそうな方たちで私のことを気に入って下さったようなご様子でしたので、私もほっとした次第でございます。
 私は早速アレックスお坊ちゃまに引き合わされました。アレックスお坊ちゃまはロードンさまの端整な顔立ちとタチャーナさまの美しい金髪を受け継いでおられました。
 私は初めはアレックスさまがお嬢様ではないかと思いました。それだけ色白で透き通るようなお肌をしておられましたし、マリンブルーの目は魂を惹きつけるほど美しかったからです。
 けれども10才のお坊ちゃまなのに、何か人生に疲れたような憂いの陰を顔に漂わせておられました。それは何故なのか、直に私も分かるようになるのです。
「この娘は今日からお前の侍女として仕えるクララという。何でも用事を言いつけるように」
「はい、お父さま」
 またタチャーナさまは私に侍女用の服を与えるようにヤニーナに言いつけました。ヤニーナは眼鏡の奥の目を細めて私の体を見てから、服を取りに出て行きました。

 一通りの手続きが終わってお坊ちゃまと2人きりになったときに、お坊ちゃまは急に態度を変えました。なにかそれまではにこやかにしておられたのですが、顔が硬直し無表情になったのです。
「クララ、お前も僕から逃げ出すんだろう?」
 私はえっ……と思いました。いったいお坊ちゃまは何を言ってるのだろうと。
「僕のベッドをみてごらん。汚れているから綺麗にしてほしいんだ」
 私は天蓋つきのベッドに近づきました。するとお坊ちゃまの言う通りベッドは悲惨な状態でございました。
「お坊ちゃま、これはいったい?」
「質問はしなくて良いから、早く綺麗にするんだ」
「はい」
 私は初めはお坊ちゃまが寝相がとてもお悪いのだと思いました。それも寝ぼけてかなり暴れるようなお休み方をしているのだと。
 けれどもベッドには羽布団のようなものはなかったし、10才のお坊ちゃまがナイフのような鋭い爪を持っているとも思えないので、その考えをやめました。
 私はシーツを変えることにしました。その作業をしながら、横で突っ立って見ているアレックスお坊ちゃまにお尋ねしました。
「お坊ちゃまはお休みするとき、窓を開けたままにしているのですか?」
 お坊ちゃまは首をゆっくり横に振りました。
「でも、何かが夜この部屋に入って来ているのでは」
 その時、お坊ちゃまの顔は恐ろしく引きつりました。白い顔が更に蒼白になって口をワナワナと振るわせたのです。そして額には汗の粒が浮かんできたのです。
「その話をするな。二度とするな」
 私はそれ以来そのことを詮索しないようにしました。けれども明らかにおかしいのです。おかしいだけでなく、何か恐ろしいことが起きているのだと確信いたしました。
 


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