投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

雨が雪に変わる夜にの最初へ 雨が雪に変わる夜に 24 雨が雪に変わる夜に 26 雨が雪に変わる夜にの最後へ

雪の夜-1

 タクシーがコーポ『スカーレット』の前で止まった。
「ありがとうございました」遼が言って、運転手に代金を支払った。「雪道の運転、気をつけられて下さい」
「こりゃどうも」その運転手は振り向いたまま恐縮したように小さく頭を下げた。

 亜紀と遼は、そのタクシーのテールライトが角を曲がってしまうのを見届けると、肩を抱き合って二階への階段をゆっくりと上った。

 部屋のドアの前で、亜紀は遼に向かって言った。「あたし、遼と離れている間に、少しずつ二人の間に何かが積もっていってる気がしてた」
「積もる?」
「思い出とか、あなたの優しさの記憶とかを、まるで雪が隠していくみたいに少しずつ」
 遼はうつむいた亜紀の肩を抱いた。「中に入ろう。寒いだろ」

 亜紀は部屋のドアを開けて遼を促したが、彼は微笑みながら手を取り、亜紀を先に中に通した。

 亜紀に続いて部屋に入った所で、遼は思わず立ち止まった。「あれ、何? この荷物……」
 暖房のリモコンを操作し終わった亜紀は振り向き、遼の手を取って言った。「あたし、もう遼とは完全に終わった、って思って、実家に帰るつもりだったの」
「終わった……って」遼は哀しそうな顔をした。

 亜紀は遼の手を引いて、自分のベッドに座らせ、自分もその横に身を寄せて座った。「温かくなるまで、くっついてて、遼」
 遼は黙って亜紀の身体を抱き寄せた。

「あたしね」亜紀が目を閉じて静かに話し始めた。「会社の社長にリストラ宣告されたの」
「リ、リストラ? ほんとに?」
「うん。それで本当は行くつもりじゃなかった同窓会にも行ったの。気晴らしに」
「そうか……」
「でも、そこで省悟くんに口説かれて、」亜紀の言葉が一瞬途切れ、彼女はさらに小さな声で続けた。「一緒にホテルに行っちゃった……」

「知ってる」遼も小さな声で言った。
 亜紀は意外そうな顔で、遼の目を見た。そしてひどく申し訳なさそうに眉尻を下げ、うつむいた。
「あたし、その時のこと覚えてなかったんだけど、数日後に省悟くんから電話があってね、あたしに何度も謝るの」
「省悟が?」
「そう。それからぼんやり記憶が甦ってきて、とんでもないことしちゃった、って。それに遼のことが忘れられないのに、他の男の人について行ったことが、あたし、自分でどうしても許せなかった」亜紀の声は震えていた。
「でも、何もなかったんだろ? 省悟と君との間に」

「あなたが後輩の夏輝さんに甘えられても、きっぱり、でも優しく彼女を立ち直らせたのに、あたしは、省悟くんについて行った……」
 遼は亜紀の肩に手を回して優しく抱き寄せた。「君は酔ってたんだろ? その時」
 亜紀は黙ってうなずいた。

「それに、」遼はおかしそうに言った。「君はホテルで省悟にビンタしたり突き飛ばしたりしたらしいじゃない。省悟から聞いた時はほっとするのと同時にすっごく笑えたよ」
「うん。あたしもそれを思い出したら、省悟くんにとってもひどいことした、って後悔して、いっぱい謝ったよ。でも省悟くん、気にすんな、って笑ってた」
「省悟も紳士だった、ってことだよ」
「そうだね……」

「僕はね、同窓会に遅れて行って、真也達から君が彼と一緒に出て行った、って聞かされた時、胸が爆発しそうになって、そこを飛び出したんだ。」
「そうだったの……」
「でも、何もできなかった。君に電話するのも怖くてできなかった……」
「ごめんなさい……」
「亜紀が謝ることないよ。だって、君はフリーだったんだから、僕が君や省悟を責めることなんかできないよ」

「もっと素直になってれば良かった……あたし」
「僕もさ。君のこと、大好きで離したくない、って思ってたのに、何もアクションを起こせずに、省悟や北原さんにまで嫉妬して、心の中でのたうち回ってたからね」
「え? タクちゃんに? どうして?」
「君と北原さんが『シンチョコ』で語り合ってるの、見てさ、てっきり男の人かって思ったんだ」
 亜紀はくすっと笑った。「確かにタクちゃんは、遠目では男に見えるね」
「だからさ、君にはとっても申し訳ないけど、一時は省悟とその金髪男と二股掛けしてるのか、って憤ってた。」
「ほんとにごめんね、遼。かき乱されてたんだね、心が……」
「それくらい、君のことがもう、僕の心から溢れるほどになってたんだ」遼は亜紀の頬を両手で包み込んで優しくキスをした。


雨が雪に変わる夜にの最初へ 雨が雪に変わる夜に 24 雨が雪に変わる夜に 26 雨が雪に変わる夜にの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前