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4人で陽向の家まで歩く。
あの後、4人で陽向の家で『おめでとうパーティー』なるものをすることになったのだ。
「いやー、意外だわ」
「何がだよ」
「お前らが付き合ってんの」
「その話は飲んでから」
「そーゆーノロケ話とかたるいんですけど」
4人で笑いながら歩く。
家に到着し、湊と陽向がキッチンに立つ。
「まーまー、お2人さんは座っててよ。お客さんなんだからさ」
そう言って湊は雅紀と楓をソファーに座らせた。
「てかここ、あたしん家なんだけど」
「そーゆーこと言わない」
小競り合いをしながらスーパーで買った材料を取り出す。
4人でご飯を食べるということになってから、カートに入れたものをほとんど戻し、鍋の具材を揃えた。
今夜はおめでとう鍋パーティーだ。
「その切り方マジでイケてない。貸してみ」
「やだっ!てかイケてないとか言わないでよ!湊が切ってって言うから切ったのに!」
「は?うるせーな。鍋の具材ぐらいちゃんと切れねーとかありえないんすけど」
ズタボロになった白菜を見ながら湊が言う。
「こんなんでよく自炊してたよな」
「あー!悪口言った!鍋なんか滅多にやんないんだから分かるわけないでしょ!」
キッチンであーだこーだ言い合いしていると、雅紀が振り返ってこちらを見た。
「つーか、お前らってホント仲良しだよな」
「仲良くない!」
「仲良くねーし!」
2人でハモったのを見て雅紀が笑う。
「そーゆーとことかソックリ」
今度は2人で黙る。
「ま、いいことよ」
雅紀は笑ってテレビに向き直った。
「湊が変なこと言うから」
「言ってねーよバカ。ほれ、早くそれ鍋に入れて」
陽向はムッとした顔で湊の足を蹴り、まな板の上の白菜を鍋に入れた。
テーブルの上にコンロを置き、火をつける。
温まるまで4人でお酒でも飲もうと、湊が買ってきたビールの缶をそれぞれに配った。
「ほんじゃ」
湊の顔がニヤつく。
「マジ笑う意味がわかんねー」
「今日は笑顔で過ごしましょ♪かんぱーい!」
湊の合図にみんな笑い、ビールに口をつける。
「ねー、楓!早く教えてよー」
ビールを一口飲んだ陽向がはしゃぐ。
「もーちょい飲んでからね!」
「えーっ。早く聞きたい!千秋と言い楓といい、ひどいよねー。一言も言ってくれないなんてさ」
「とか言う陽向もずっと隠してたじゃん」
「いやー…それはさー…」
陽向がどもると、3人が笑った。
「俺らの話もそーだけど、湊と風間の話も聞きたいよな」
「聞きたい聞きたい!」
「それはもーちょい飲んでから」
また笑いが起こる。
「じゃー、今日は暴露話大会ってことで!」
陽向がケラケラ笑う。
「おめーもう酔っ払ってんの?」
「酔っ払ってない!」
「酒が弱いやつはこーだから困るよな」
「だから酔っ払ってないって!」
ムキになって湊を睨む。
その目は微かに充血していて、誘っているようにも見える。
湊は、触れて、抱き締めたい衝動をグッと抑えた。
その瞬間、鍋の蓋から沸騰した汁が零れ出した。
「あーっ!零れた!蓋開けよー!」
陽向が鍋の蓋に触れる。
「ぎゃーーー!あついっ!!!」
「バカ。布巾使えよ」
湊と陽向のやり取りを見て、雅紀と楓が笑った。
「つーかさ」
雅紀が何か言おうとしたので、2人でそちらを見る。
すると、雅紀はぷっと吹き出した。
「意外すぎて笑える」
「何がだよ」
「お前らがそーやって楽しそーにしてんのがさ。去年の今頃までギャーギャー言い合いしてたのにーって思って」
そう言われ、過去を思い出す。
確か去年の今頃は湊と相当仲の悪い関係だったと思う。
食堂でいつもの3人と昼食を摂っていると、湊たちが横を通り過ぎた。
「おー、またうどんか」
しれっと声をかけられる。
この声は…。
「げ。いがら……」
「あーっ!五十嵐ー!」
文句のひとつでも言ってやろうかと思い口を開いた瞬間、陽向の言葉は奈緒に遮られた。
五十嵐湊の大ファンである奈緒が急にキャピキャピし始める。
「どーも」
「ねー、飲み行こうよー。そこの3人もさぁー」
「そーね、今度行くか」
湊は社交的な笑みを浮かべた。
「そっちの4人とうちらで行こ!あー、ちょー楽しみ!」
「4人って、そこの子供も来んの?」
「子供?」
湊は嫌味ったらしい顔をして「そいつ」と、陽向を顎でしゃくった。
「あはははは!こー見えて陽向も結構飲むんだよ。ね?」
「てか子供じゃないし!なんなのあんた」
「出たー、すぐ怒る風間サン。カルシウム足りないんじゃね?」
「毎日牛乳飲んでるし!」
「ははっ。身長のために?」
「違う!!!」
バンッと机を叩く。
と、その拍子に箸が転げ落ちた。
「あ」
それを見て湊が「だっせ…」とクスクス笑う。
「あんたが話しかけるから!」
「は?人のせいにすんな。落としたの自分だろーが」
ほんと、ムカつく…。
なんなの、こいつは。
これ以外にも、ひどくくだらない小学生のようなやり取りを毎日のようにしていた。
それは今でも変わらないけど、何かが違う。
何だろう。
何だっていいか。
幸せならば、それで。