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6:30に目覚ましが鳴る。
昨日セットしたままだった。
陽向は寝ぼけ眼をこすって目覚まし時計を止めた。
隣で湊が「あー…うるせー…」と声を漏らした。
布団に潜り込み「ごめん」と呟く。
「ん…」
筋肉質な腕に抱き寄せられる。
「いつも…こんな時間に起きてたんか?」
「わりと」
「そか…頑張り屋さんだね」
「でもね、起きてコーヒー飲んでテレビ見て、気付いたらお昼過ぎてるの」
陽向はイヒヒと笑った。
「しょーもねーな」
「だよねー」
湊は陽向を両腕で抱き締めると、「極楽」と言った。
「え?」
湊は何も答えず、陽向の髪を撫で、唇にキスを落とした。
胸に顔をうずめる。
しばらく抱き合う。
「陽向…」
ウトウトし始めた陽向の耳を甘噛みする。
「大好き…」
湊がそんな事言うの、珍しい、
だいすき、湊…。
そう言いたかったけど、まだ眠い。
「んんー…」
「ひな坊おねむ?」
「眠たい…」
今まで寝れなかった分、この大好きな温もりの中で眠りたい。
湊の指が、頬を撫でる。
陽向は優しい感覚に包まれながら、再び眠りに落ちた。
久しぶりに何もない休日を過ごすのは、なんだかフワフワした感じだ。
何かしなくちゃいけないという思いが身体から離れない。
そんな休日。
2人でソファーに並んで座り、お気に入りのコーヒーと少しのナッツを楽しみながら、撮りためたドラマやスペシャル番組、深夜番組を延々と観て過ごす。
「この前これ観たんだけど。リアルタイムで」
「あたしは観てないもん」
「この後さ、こいつが…」
「あー!ばか!言わないで!」
湊の肩を思い切り叩く。
2人で笑い合う最高の休日。
ずーっとこんな毎日だったらいいのにな。
全部見終わった頃、とっくに日は暮れていた。
食事などすっかり忘れていて、「腹減ったー」と言う湊の言葉で、初めてお腹が空いたと思った。
「その集中力なんなの。尊敬するわ」
「面白かったんだもん!ね、明日はDVD借りよーよー」
「またテレビ見るんか?ケツに根っこ生えるぞ」
「もう生えてる」
陽向はソファーに寝そべって「あー肩凝った」と呟いた。
「何食いたい?」
「え?作ってくれるの?」
「ん、あり合わせで」
湊はそう言うと、冷蔵庫を開けた。
「え」
湊がこちらを向く。
「なんもねーじゃん」
「しょーがないよ。自炊出来なかったんだもん」
「しゃーない、スーパー行くか」
「ありがとー」
「おめーも行くんだよバカ」
「…はーい」
2人で防寒して外に出る。
先週、東京で珍しく雪が降った。
まだまだ外は凍えるほど寒い。
「いあーーー。さぶいー!」
外に出るなり陽向が叫ぶ。
「夏より冬のが好きっつってたじゃん」
「冬のが好きだけど寒過ぎるのはやなの」
「ちょーめんどくせー」
「繊細って言って」
くだらない会話をしながらスーパーまでの道を歩く。
「湊…」
「なに?」
「手…」
「手がなに」
「……」
黙ると、湊は陽向の右手をギュッと握った。
「これでいーですか?」
陽向がヒヒッと笑う。
さすがにスーパーの前まで来たときは手を離した。
カートにカゴを入れてガラガラと引く。
おかず何にしよーか、なんて話しているのが新婚の夫婦みたいだ。
生姜焼きを作ると湊が意気込んだので、それに合わせて食材を調達する。
肉のコーナーで豚肉を手にした時、湊に思い切り肩を叩かれた。
「…った!!!なにっ」
「おい、あれ」
湊が顎をしゃくった方を見ると、雅紀がいた。
「あ、マーくん!」
と、声を上げた時、もう1人…。
「えっ?!…え?!」
その後ろから楓が楽しそうに歩いて来たではないか。
楓の方に行こうとすると、湊にパーカーのフードを掴まれ、「経過観察」とニヤつきながら言われた。
そろそろと2人で探偵ごっこをしながら雅紀と楓の様子を伺う。
かなり楽しそうだ。
時折、雅紀が楓に触れる。
これは…。
陽向はニヤニヤ顔で湊を見た。
湊もニヤニヤしている。
と、おもむろに携帯を取り出し操作すると、「あ、俺。湊」と話し始めた。
やや遠くにいる雅紀も電話をしている。
どうやら雅紀に電話しているようだ。
「随分楽しそーだな」
湊は笑いながらそう言うと、雅紀のいる方までゆっくりと歩いて行った。
雅紀が後ろを振り向く。
「えっ!えー!嘘だろ?!」
その隣で楓も驚いた顔をしている。
湊は何も言わずに雅紀に近寄った。
「おい、湊!マジ勘弁してよ」
「出来ねーなー。お前もなんか言ってやれや」
湊が振り向いて陽向に笑いかける。
「楓ー。聞いてないよー!」
楓は「ごめん、ほんとに!いつか言うつもりだったの!」と笑いながら答えた。
「お前ら明日なんかあんの?…ってかこんなことしてんなら、なんもあるわけねーか!」
湊はケラケラ笑って「うち来る?」と言った。
「え?」
「あー、うちってかこいつん家だけど」
湊は陽向の顔を見てそう言った。