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「…バカッ!人…来るから…」
「来ねーよ…。もう3時過ぎてる」
「いっ…あっ…!でもっ…」
陽向は湊の胸をグーで叩いた。
「…って。てか力弱っ」
湊が柔らかく笑う。
そのままベンチに腰掛け、身体を引き寄せられる。
「国試どーだったの」
「…わかんない」
「わかんないって何よ。手応えは?」
「…保健師の方はない」
「はは。発表いつ?」
「3月25日」
「随分先だな」
「うん」
飲み会の帰りにフワフワした頭で公園のベンチでこんな話をしているなんて、なんだかおかしな話だ。
でも、湊と一緒だと悪くないかな、なんて思ってしまう。
なんか、こうされるの、久しぶりだな…。
「酔い醒めた?」
「うーん…ダメ。二日酔いコース…」
「相当飲んでたもんな。飲んでたってか飲まされてた、ってのが合ってるか」
湊は笑って陽向のほっぺたをつねった。
「痛い」
「ここ触んのちょー久しぶり。まじ気持ちい」
そう言いながら湊は陽向のほっぺたをいじった。
そう言えばいつも隣で寝てる時、こーやってほっぺたいじられてたな。
なされるがままにされていると、湊は立ち上がり、近くの自販機まで向かって何かを買って戻ってきた。
「ほれ」
水の入ったペットボトルを渡される。
「…ありがと」
蓋を開け、グビグビと飲む。
なんで酔っ払っている時の水って格別に美味しいんだろう。
「美味し…」
「酔っ払ってる時は水が一番美味いよな」
「ん」
「歩けそ?」
「多分」
そう答えたのは、湊におんぶしてもらいたかったからかもしれない。
「じゃあもーちよい休む?」
「寒いからいや」
「お前ってそんな面倒くせーやつだったっけ?」
とか言いつつ、湊は陽向の前に屈み、「ほれ、家まで送ってってやるよ」と言った。
遠慮なく広い背中に抱きつく。
すっと視界が高くなる。
「湊背おっきいね」
「だろ?」
「何センチあるの?」
「178」
「28センチ違いだ」
「ちびっ子だもんな、ひな坊は」
「うるさいな」
バシッと湊の肩を叩く。
「そんな元気あんなら歩けんだろ」
「足が無理って言ってる」
「あー、うぜー」
笑ながら歩く深夜の公園。
歩いてるのは湊だけど。
生きてれば、幸せなことってあるんだなぁ。
マンションの305号室、角部屋が陽向の家だ。
リビングに荷物を放り、隣のベッドルームに繋がる扉を開ける。
間接照明を灯し、机の整理を始める。
ベッドのすぐ隣に置いてある机の上の時計は3:15を指している。
机の上には問題集が散らばっている。
昨日まで一緒に戦ってきた戦友のような存在だ。
陽向は、もう一生開くことのない問題集たちをクローゼットの中にしまい込んだ。
「お疲れ様だねー、その問題集たち」
ベッドに横たわる湊がヘラヘラ笑う。
「しばらくとっとく」
「とか言って半年も経たねーで捨てるのがオチ」
「そーかも」
陽向は笑って湊の隣に寝そべった。
間接照明に照らされた湊の顔がやけに色っぽい。
何秒か、何分か分からないくらい見つめ合う。
不意に、湊の手が頬に触れる。
「怒ってる?」
「なにが?」
「居酒屋でキスしたこと」
陽向はヒヒッと笑い、「怒ってないよ」と言った。
「お前あーゆーの好きじゃないっしょ?」
「どーゆーこと?」
「人前でキスされんのとか。俺もあんま好みじゃねーけど」
「びっくりした。湊そーゆーの嫌いそーだもん」
「嫌いだよ」
湊はそう言うと陽向の頭を引き寄せ、鼻にキスをした。
「こーやってんのが一番好き」
一番近いところで、求めていた温もりを手に入れた。
狭いベッドで互いを求め合う。
「髪伸びた?」
「うん…。切ったら勉強したこと全部忘れちゃいそーで切れなかった…」
そんなくだらない会話もキスで途切れ途切れ。
湊のキスはあったかくて、優しくて、大好き。
もっと、あたしをめちゃくちゃにしてよ…。
舌と舌が求め合うように絡む。
「はぁ…ぁ…ん…」
湊の手が遠慮なく胸を揉みしだく。
いつぶりだろう、湊とエッチしたの。
国試だからってずっと会ってなくて……ずっとその前、えっと…いつだっけ。
忘れちゃった。
…だから、今この温もりが懐かしくて愛おしくて嬉しくて、なんだか切ない。
「湊…ぁ…」
「ひな…その声反則…」
「んっ…んぁ…」
指が下の敏感な突起を触り始めた。
久しぶりの感覚に、身体がピクンとなる。
「んんっ…ぁ…」
「ちょー濡れてる…。そんな、したかった?」
「……」
陽向は頬を赤くして湊を睨んだ。
指が中に入り込む。
とっくの前に2人の服はベッドの下に放られていた。
肌と肌で互いを感じ合う。
少し残っているアルコールのせいで、余計に感じる。
そして、大胆になる。