地獄へ道連れ 3-1
大量の古い衣服や、アクセサリー類、、壊れたマネキン人形……遺跡の一角は、衣服を売る店だったらしい。瓦礫と混ざったそれらの上へ、新たに極彩色の羽根と、輝きを失った鉱石ビーズが散らばっていた。
褐色の指先が、ピクピクとわずかに痙攣する。
「ぜ、ぜったい……負けない……っ!」
積み重なった古布の上で、レムナがひっくり返ったまま、ゼェハァと息を荒げる。
「ディ……ディキシス……ほ、本当は小動物とか大好きで! こっそり抱っこして、ニヤけてるんだからっ! 可愛いでしょ!」
壊れた木棚の隙間に倒れているアーウェンも、ハァハァ喘ぎながら、負けじと反撃した。
「ら……ラクシュさん、なんて……気配を消して、素早くつまみ食いしても……ほっぺたがハムスターみたいに膨らんでるから、バレバレなんですよ!?」
どうだっ! と、アーウェンは弱弱しいながら、勝ち誇った笑い声をあげる。
「なにそれ、可愛いっ……け、けどっ! だったら、ディキシスは……寝癖を一生懸命直してるとこ、最高なのっ!」
互いに倒れ伏したまま、最後の体力を振り絞り、二人は舌戦を繰り広げる。
……本気で殺しあいを始めたものの、直後に二人は、体長30メートルはある大蛇を始め、次から次へとキメラたちに襲われたのだ。
地下の生物にとって、珍しい地上の生物は、とても美味そうに見えるらしい。 ひとまず協力して必死で戦ったあげく、やっと片付いたと思ったら、今度は巨大蜂の群れに襲われ、死に物狂いで逃げまわり、ようやく逃れたところで、両者とも力尽きた。
二人とも、数箇所づつ蜂に刺されていたが、巨大蜂の毒は即死するようなものではなく、遅効性の神経毒らしかった。意識もあるし喋れるが、身体は痺れて動かせない。
このままでは、キメラや蟲の餌になるのも時間の問題だろうと、観念した二人は、最後に決着をつけようと、先ほどからディキシスとラクシュのどちらが勝つか、言い争っていたのだ。
そして舌戦は、徐々に論点がずれていき、今ではすっかり、単なる互いの萌え自慢となっている。
「な、なら……ラ、ラクシュさんの……ソファーで丸まった昼寝姿! たまに寝言も言ってるんですよ! 俺は、あれだけで、ごはん三杯食べれま……」
アーウェンがヒリヒリする喉で、必死に声をはりあげた時……。
「ん?」
抑揚のない声が、倒れた二人の耳に届いた。
「……っ!!!!?????」
倒れたまま、半分崩れた壁の向こうに視線を動かしたアーウェンは、眼を疑った。驚愕はレムナも同様だろう。二人は同時に声を張り上げた。
「ラクシュさん!?」
「ディキシス!?」
ラクシュの服は大きく破れ、大量の固まった血で張り付いているような状態だ。
ディキシスも、目立った外傷こそないが、かなり憔悴しているようだった。
しかし、相容れられるはずもない二人が、確かに両者とも生きて、しかも争っている気配は微塵もない。
唖然としている二人の前で、ラクシュが傍らのディキシスを見上げ、小首を傾げる。
「小さい、ふわふわ……好き?」
ディキシスは俯き、ブルブルと肩を震わせて、無愛想に呻いた。
「……聞くな」