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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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地獄へ道連れ 3-2


 ***

 ―― その後は、非常に目まぐるしく事が進んだ。
 ディキシスはまるで動けないレムナを抱きかかえ、ラクシュはアーウェンを肩に掴まらせると、四人は鉱石木の太い一本へ乗った。
 ラクシュは遺跡を崩さないよう、慎重に鉱石木を操って、地上へと伸ばして四人を運ぶ。

 すでに夜明け近くとなっており、一夜にして大変動をとげた野原の周囲は、大変な人だかりとなっていたが、穴を鳥かごのように囲んだ鉱石木群が、地下から昇ってくる四人をを隠してくれた。
 なにより驚いたのは、クロッカスがなにごとも無かったような顔でひょっこり姿を現し、人目を避けれるように、馬車やマントを密かに用意してくれていたことだ。

「備えあれば憂いなしって奴だ。お前等が、そう簡単にくたばるとは思わなかったからなぁ」

 そう笑い、御者席で手綱を取るクロッカスの尾は、確かに全てが真っ白だったのに、また一本だけ青紫に戻っていた。

「クロッカスさん……どういうことなんです?」

 アーウェンが荷台でぐったりしつつも、我慢できず尋ねると、クロッカスは九尾を得意げに振り、ニヤニヤ笑いを浮かべた。

「おじさんはな、奥の手を隠し持っとく主義なんだよ。これ以上は秘密だ」

 そしてクロッカスは、アーウェンとラクシュを家まで送り届けると、レムナとディキシスを乗せて、人目を避けながら街へ帰って行った。

 ***

 ―― 家に入った途端、気が抜けたらしい。
 アーウェンは崩れるように、板張りの床へと座り込んだ。蜂毒の痺れは、もう殆ど抜けていたが、身体も精神も限界まで疲弊しきっていた。

「アーウェン……?」

 ラクシュがすぐ前にしゃがみ込んだが、アーウェンは俯いたまま、黙っていた。
 彼女の顔を直視出来ない。クロッカスの馬車に乗ってからずっと、アーウェンはラクシュに視線を向けられなかった。
 彼女とディキシスの間に、どういう経緯があったかは、まだ聞いていない。レムナも気になっていたようだが、いずれ後でディキシスから聞くだろう。

 しばらくの沈黙が過ぎた末、アーウェンはようやく、声を絞り出した。

「俺、吸血鬼たちを許せなくて……結局、殺しました……ラクシュさんが傷つくと解っていたのに」

 あの地獄のような地下遺跡で、もうラクシュとは二度と会えないと覚悟していた。
 そして、最強の彼女があっさり死ぬはずもないから、気が狂いそうなほど辛かったけれど、血飢えを満たすのに、今度はもっと優しい魔物を見つけてくれればいいと願った。

「……そっか」

 ポツリと、小さな声が聞えた。そして不意に、ラクシュにそっと抱きしめられた。

「私……吸血鬼も、人間も、みんなを好きになったら……それだけ、苦しくなって……でも、なんでなのか……わからなかった」

 アーウェンの頭を両腕でかき抱き、ラクシュはたどたどしい言葉を紡ぐ。

「それを、今日……ディキシスが……教えてくれたんだ……この世界は、私の……地獄、だって……だから、ここを、ずっと歩けって……でも……一人じゃ、もう、歩けないんだ」

「ラクシュさん……俺は……」

「一緒に、歩いて、くれる? 君の血しか……私、飲めない」

 血の滲んだ頬の傷をペロリと舐められ、こみ上げる愛しさに、涙が溢れそうになった。

「はい、喜んで」

 貴女となら、この世の果てでも地獄でも、どこまでも一緒に歩いて生きたい。
 そう告げると、あの不思議なキラキラが出てしまったのか、ラクシュが眩しそうに目を細めた。
 彼女もかなり疲労しているらしく、くたりとアーウェンに身を寄せる。

「ラクシュさん……血を、飲んだほうが良いんじゃないですか? 俺の身体なら、もう平気です」

 正直に言えば、アーウェンはかなりの大怪我だったが、人狼の回復力は凄まじいから、ヒビの入った骨すら、明日にはきっと治ってしまうだろう。

「ん…………」

 ラクシュがためらいがちに、上目で見上げる。白く細い指が、アーウェンのシャツボタンを外しはじめた。

「今日は……もう……吸わなくても、いっぱい、出てる……」

 肩や腕、わき腹など、そこかしこの傷口を、ラクシュの舌がそっと這いはじめる。

「っ! ラクシュさ……」

「ん……美味し……」

 頬を紅潮させたラクシュが、恍惚を帯びた声で呟く。

「……っ、あの……」

 大怪我をしているアーウェンを気遣ったのだろうが、かなりの生殺し気分だ。生ぬるく柔らかい舌で傷口を舐められると、痛みよりゾクリとした性感のほうが強くなる。
 堪えきれず、傷口を熱心に舐める彼女を引き剥がした。

「あ」

「すみません。すぐにちゃんと、飲ませます。俺はいつだって、貴女に喰らわれたくて、たまらないんですから」

 これ以上の生殺しは御免だ。
 彼女が首筋へ喰らいつかずにいられなくなるほど、もっと欲情させてしまいたい。

 でもその前に、たった一言だけど、どうしようもないくらい、今すぐ、急いで、伝えたいことがある。

 ラクシュを抱き締めて、精一杯の想いをこめて告げた。

「愛しています」



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