7.罪より先に与えられる罰は無い-9
一度強く瞬きをした。だが遂に、毛先が弧を描きながら丘陵を登ってきて、頂上にほど近い性感の密集帯ギリギリまで索走してくると、バストの内部全体に渦巻くような、悍ましい嫌悪感と、もどかしい期待感がない交ぜに充満した。
村本は、悠花が追い込まれているのを重々察知していた。苦悶の表情を浮かべて微かに身を捩り、歯ブラシを頂上近くまで寄せれば如実にヒクつき、毛先が遠ざかれば安堵と残念さが滲んだ表情を見せている。
股間ではコンドームの中に夥しい透明液を漏らし続けていた。輪ゴムで密閉された内側に溜まりきった体液が、脈動で蠢く男茎と薄皮との間で泡立ち、混濁して白んでいる。男茎の表面にしっかり貼り付いていたはずのコンドームは、隙間に流れ込んだ不浄の汁によって幾重にもシワを作っていた。緩んできている。
「……じゃあ、悠花ちゃん」
全裸で正座し、背を丸めて前傾していた男が、顔を上方に移動させて悠花の顔を間近に覗きこんでくる。蛍光灯の灯りを遮って逆光を浴びているから、暗く細部までは見えないものの、キモ顔には違いなかった。思わず顔も目を背けたくなったが――目を逸らしてはいけない――村本の言葉を思い出して必死に耐えた。これ以上難癖をつけられて、また罰だの何だのと要求されるわけにはいかなかった。
「じゃ、そろそろ乳首、してあげるね? ふふっ……、悠花ちゃんの乳首、どの辺か教えてくれるかなぁ?」
(……!!)
村本は飽きることなく、三十分以上もバストへ歯ブラシを這わせ続けていた。
時計が見えない悠花にとっては、実際以上に長く感じられた時間だったが、その間じゅう、一度たりとも歯ブラシが頂上まで到達することはなかった。やはり、男はわざと、頂点を避けてきたのだ。
「教えるわけないでしょ? そんなの」
だが歯ブラシが視界に現れ、ゆっくりと自分の胸乳の頂点上空へ移動していくのが見え、上半身に力が入る。
「くくっ。じゃ、探してあげるねっ。どぉなっちゃうのか楽しみだねぇ……」
「探さなくていいっ……」
お構いなしに、歯ブラシが降下を始める。男が歯ブラシを降り立たせたのは、先ほどまでなぞっていた中腹よりも頂点に近い位置だった。
「……っ、ひ……」
服の上から軽く当たっただけである。しかし、性感の集まってきた頂点の至近であったために、肌に湧き起こる期待感はこれまでをはるかに上回った。
男は、打ち震えた悠花をニヤニヤと眺めながら、
「じゃ……、どこかなぁ〜……」
と、絶妙な圧力を加えながら動かし始める。その毛先が、バストの上で息づく、より敏感な乳暈との境界に達すると、ゾクッと背中が一閃した。
「……んんっ、や、やめ――」
そう言いかけたとき、ついに毛先が突起によりかかり、しばらく圧力に耐えたあと、弾くように擦れた。ずっと放置されてきただけに、いざ触れられたときの感覚は、トップスとブラの上からであっても強烈だった。毛先が去った後でも軌跡が痺れ、新たなもどかしさを誘発し、次の刺激を渇望してしまう。
(あ、いやっ……。だめっ……)
直ぐに抑え込もうとしたが手遅れだった。軟突していた乳首は、たった一度だけの接触だったのにみるみると固くなって、天井に引っ張られるかのような双つの痛点となった。