彼の涙-1
情けないなぁ、僕は。
つい此間「君を包み込んであげる」って言ったばかりなのに。
風の音だけが耳に響く中、今、僕の心労も知らずに、制服を着て下校するクラスメートや
部下着でお互い顔を見合って会話をする人たちが、ゴミのように歩いていく。
僕はこれから天国へ行く。そこで持病に悩まされる事無く杏とずっと共に居て、彼女の元気な手を握りお互い笑みを浮かべ雲の上を駆け回るんだ、誰に邪魔をされる事も無く。
細い平均台の上から足に力を入れる様に、金網の外側に片手を掛ける。
今から僕は実に自分勝手な行動に移る。ここから飛び降り、周りの人は驚き戸惑い恐怖に感じ。学校も生徒が自殺したとして教育委員会や取材会見などで迷惑を掛ける事だろう。
何より僕が死んで、友人である加藤君伊藤サン、普段見慣れている母さん父さんいずみ、
そして、こんな僕に何時も笑いかけてくれる大切な幼馴染で恋人の杏。
彼らに大変申し訳無い事をする。
指が震える、膝も揺れる、これから3階いやそれ以上に高い所から固いアスファルトの上に身を投じようとしているのに。
引き返そうか?高所恐怖症と言う訳では無いが普段大きく見えるコートや倉庫があまりに小さく見えるのを感じ、今の自分がいかに恐ろしい行為をしようとしてる事を実感し。ダガこのまま飛び降りるのを止め、元の生活に戻るか、いや、それは出来ない、絶対に。
火災に遭い、容赦なく人を囲もうと追っかけてくる有害ガスから必死に逃げ、そして逃げ場を失い、高所からダイビングを行わなければガスに包まれたちまち息絶える。今の僕はそんな状況に追い込まれているんだぞっ!?。振り向けば有害ガスと言う名の絶望の生き地獄、飛び降りれば強引な消去法によって幸福な道とされた、決して正しくない幸せの選択。
僕はもう一度考え直す、しかしもう一人の自分が口にする返答は同じ。
意を決し、ヘリコプターからダイビングを楽しむ人のように思いっきり飛び降りた。
体を支えていた足の重みが一気に消え、アニメではゆっくりと落下するのに対し実際には
高速で線路を走る新幹線の如く早く落ち、風が躊躇無く僕の全身を切りつける。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
切り裂くような激しい黄色い悲鳴を耳にする。
その声を挙げたクラスの人の周りに何事かとゾロゾロと同じクラスメートが集まり、一同この異常な目の前の現実にどうして良いか分からず凍りつき。数分もしない内に近くにいた先生が、膠着する生徒を払いのけ、飛び降りた生徒の死体を目にし、一瞬驚くも冷静さを取り戻し、周りでひっそりと声を挙げる生徒達を教室に戻るよう言い聞かせる。
あぁ
僕は死んだんだ
母さん、父さん、いずみ、御免なさい。
加藤君、伊藤サン、今まで有難う、美術部を頼んだよ。
杏……
立ち向かう勇気を持てず、楽な道を選んだ愚かな幼馴染を許してくれ。
僕はあの世で君を見守っているよ。
あぁ、どうして、こんな、事に……。