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雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

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疑心暗鬼-3

「秋月さん」夏輝が穏やかな口調で言った。「これ、食べてみて下さい」
 そうして夏輝はテーブルのかわいらしい小皿に載った丸いチョコレートをつまみ上げると、遼の手をそっと開き、そこに乗せた。
「日向さん……」
「これは薬です。気分を良くする」

 遼はぽかんとした顔で夏輝を見つめた。

「あたしも何度も助けられたんですよ、このチョコレートに」
「そ、そうなんですか?」
「はい。効果覿面(てきめん)です」そして夏輝はにっこりと笑った。

 遼は半信半疑のままそれを静かに口に入れた。

「秋月さんは、見たり聞いたりしたことを、ご自分の中で悪い方に考え過ぎだと思います」
 口をもぐもぐさせながら遼は言った。「え?」
「だって、その狩谷さんも背の高い男性も、亜紀さんがおつき合いしている人だっていう証拠はないわけでしょう?」
「そりゃあ、そうですけど……」
「亜紀さんにお電話しましたか? 最近」
「え? いえ……」
「疑心暗鬼ってやつじゃないかな。それって」
「疑心暗鬼……」
「秋月さんが過去におつき合いされていた女性が、そんなだらしない恋愛をするわけない、とあたし直感で思います」
「……」
「って、そんなことは、秋月さん自身が一番ご存じでしょう?」

 遼は、しばらくじっと目の前のカップを見つめていた。そしてふう、と小さなため息をついた。
「日向さん。僕、確かめてみます。まず狩谷に」
「そう。それがいいと思います」夏輝はにっこりと笑った。
「ありがとう、何だか本当に気持ちが落ち着きました。これ食べたら」
 遼はテーブルのチョコレートを一つつまみ上げて、夏輝に渡した。
 夏輝はそれを受け取りながら微笑んだ。「でしょう?」
「いや、そうじゃないな。貴女が僕を励ましてくれたから、ですね」
 遼ようやくにっこりと微笑んだ。


 拓海と亜紀は二人で街のイタリアンレストランで食事を済ませた後、アーケード街を歩いていた。
「やっぱ最高だわ、『アンダンテ』のパスタ」拓海が満足そうに言った。
「コースだと品数も多いしね。デザートも毎回期待を裏切らないんだよ」
「いいよな、都会は。あたしも引っ越そうかな……」
「そうもいかないでしょ、タクちゃん。旦那さんの職場が遠くなっちゃう」
「そりゃそうだ」

 二人はアーケード街を抜けた通りに出た。亜紀は、通り沿いにある『シンチョコ』の前に来た時、ふとその店内に目を向けた。
「えっ?」
 亜紀は小さく叫んだ。

 温かいオレンジ色の灯りに浮かび上がった窓の中で、遼がテーブルの向かいに座ったポニーテールの女性から一粒のチョコレートを手渡されている。

「どうしたんだ? 亜紀ンこ」
 亜紀はしばらく足を止めて動かなかった。
「おい、亜紀ンこ」
 亜紀は我に返ったように拓海に顔を向けた。「え? ど、どうしたの? タクちゃん」
「そりゃこっちのセリフだ。急に立ち止まってなにぼーっとしてんだ?」
「な、何でもない……」
 亜紀はまた歩き出した。

 拓海は亜紀が見ていた『シンチョコ』の窓を目を凝らして見た。「あ……」
 茶髪のポニーテールの若い女性と向かい合って座っているのは、あの写真の亜紀と頬を寄せ合った男性だった。
「亜紀ンこの元彼?」

 拓海が気づいた時には、亜紀はずっと先を歩いていた。
「おい、待ってくれよ、亜紀ンこ!」拓海はそう言って亜紀に向かって駆けた。


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