歪な氷雪-7
二階に上がろうと思った。もちろん美羽の部屋を見るためにだ。
今頃は高校の友だちと一緒に鍋パーティーで盛り上がっているだろうから、いきなり帰宅するという心配もない。
雅治の心はすでに決まっていた。美羽の部屋に入ったら、自慰行為の痕跡を探してみよう。きっとどこかに隠してあるはずだ。
そして父はついに無断で娘の部屋に入ってしまう。
いい匂いがする──第一印象はそうだった。おなじ家に住んでいるのに、ここだけが別世界のようだ。
兄弟姉妹のいない一人っ子だから、美羽のわがままが全部ここに詰まっている。ほんとうは一緒に遊べる姉や妹が欲しかったに違いない。
一人で遊ぶことに慣れてしまった美羽ならば、自慰をおぼえるのも早かっただろう。
雅治は嗅覚でもって部屋中を物色した。下手に触るとばれる可能性があるからだ。
しかしハンガーラックに掛かった高校の制服を見た瞬間、気持ちが吸い寄せられていくのがわかった。
雅治はチェック柄のスカートに触れ、丈の長さを眺めた。こんなに短くオーダーした覚えはない。
おかげで美羽の太ももを毎朝見なければならなくなったのだ。
もうすっかり大人なんだなと、雅治はブレザーにも手を伸ばす。
するといきなり携帯電話が鳴り出した。あまりにもタイミングが良すぎるので、雅治はドアのほうを振り返るが、そこに美羽の姿はなかった。
電話に出ると、
「あと一時間くらいしたら迎えに来て」
と調子のいい声が返ってきた。美羽のはしゃいだ声を聞くのは久しぶりだ。
「まさか、酔ってるのか?」
「そんなわけないじゃん。とりあえずそういうことだから、おねがい」
電話が一方的に切られると、雅治はふたたび制服を見た。
おねがい、という美羽の台詞だけが頭の中をぐるぐるまわっている。
おねがいだから、制服を脱がせて欲しい──。
おねがいだから、あたしを抱いて欲しい──。
だめだ、そんなことをしたら、俺たち親子はきっと破滅する──。
そんな自分勝手な妄想から逃げるようにして雅治は一階まで下り、テレビの前に座った。
そして両手に抱えていたものを足元に並べる。美羽の制服の上下である。
あきらめようと思ったが、あきらめきれなかったのだ。