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顕持瑠美ちゃんのお姉さんが実家に戻ってきたのは、その年の年末でした。
街にはクリスマス・ソングが流れ、白い雪もちらつき、あわただしい歳末の雰囲気の中を、人々は足早に歩いていました。
瑠美ちゃんのお姉さん、瑛美さんは昔、県外の有名な私立の学校を受験し、合格して、そこの寮に入っていたのでした。休みのときには、たまに(それでも、たまに、でしたが)家に戻ってはきましたが、たいてい1週間も立たないうちに、部活の合宿だなんだと理由をつけて、また出ていきました。どうもお姉さんは、この実家が居心地悪いようです。
それが今回は、新学期、つまり三月までこの家にいるというのです。お姉さんが大好きで、憧れている瑠美ちゃんは、嬉しくてなりませんでした。
「お姉ちゃん、おかえりなさい!」
やわらかそうな栗色の髪をとめる黄色のリボンが、両耳の上で揺れました。
「ただいま」
マンションの高い階の、顕持家。お姉さん――瑛美さんは、おとなっぽい、涼しげな笑みを浮かべて、玄関のドアから入ってきました。
「あー疲れた。ママは?」
瑛美さんは、大きなショルダーバッグを肩からおろして、後ろを向き、靴を脱ぎ始めました。
さっぱりしたショートの金髪の瑛美お姉さんは、学校の制服以外はズボンを好んではきます。後ろから見ると、まるで男の子のよう……いえ、前から見ても、涼しい目、かすかに皮肉めいた微笑を浮かべる唇……美少年といっても通じるような、妖しい中性的な美貌の持ち主なのです。――それでいて、胸は意外とあります。
「ママいないよ。言わなかったっけ?」
「ならいいのよ。あー疲れた。ただいまただいまぁ〜」
瑛美さんは、わざとのように大きな声を出して、再びショルダーバッグを肩に、家に上がりました。
――数分後、瑠美ちゃんの、花柄模様の壁紙の、いかにも女の子な可愛いお部屋で、紅茶のカップを手に、二人は向きあっていました。
なんとはなしに、瑛美さんが三月までこの家にいられるという話、お部屋のクッションや小物の話、世間話や友達のウワサ話、志摩クンという、瑠美ちゃんが好きな男のコの話などをしていたのですが、そんな話をしながらも、瑠美ちゃんは、瑛美さんの胸が気になってしかたありませんでした。
(大きくなってる……)
たしかに、前に家に戻ってきた時より、少なくとも瑠美ちゃんの記憶にあるよりは、その胸は、大きくなっているようでした。
英語らしい文字が書かれた、トレーナー風の服の、少しごわごわした生地の下で、その胸は、形よくふくらんでいました。
(ちょっとかたそうな服なのに、あんなにふくらんでるなんて……)
なんでしょう、この感覚は。
なんだか、ミニスカートの奥のアソコが、ウズウズしてくるではありませんか。瑠美ちゃんが、可愛い頬をかすかに上気させながら、ぼうっとしていると……、
「……瑠美、瑠美ったら!」
「え……え?」
瑛美お姉さんが、軽くにらんでいました。
「もう、聞いてるの? 人の話を…」
「うん……あ、いや、聞いて、ない、なかった……です」
小学校のとき、まるで家庭教師のように瑛美お姉さんに勉強を教えこまれたことを思い出して、瑠美ちゃんは思い出しました。そういうとき、瑛美お姉さんは、とってもきびしいのです。
「瑠美も変わってないわねえ。もうオトナでしょう? 少しはしっかりなさいよ」
「はい、ごめんなさい」
「ぼうっとして……いったい何を考えてたの? 言ってごらんなさい」
瑠美ちゃんは下を向きました。だから、そのときの瑛美お姉さんの、何とも言えない表情を見逃していました。
「それは……」
瑠美ちゃんは赤くなってうつむきました。お姉さんのおっぱいが気になっていたなんて、言えるわけがありません。
「――当ててあげようか?」
しかし、しばらくの気まずい沈黙の後、瑛美お姉さんは、おもむろに口を開きました。
「あたしのおっぱいが気になってたんでしょう?」