Taste-17
「・・・お、この味」
目の前の牛肉のステーキを切り分け口に運んでいたエドガーがふと手を止める。
釣られてセリスも手の動きを止めて目の前の夫に視線を動かした。
「どうしたの、エドガー?」
「この肉、いつものメニューと思っていたが・・・・今日はひと味違うな」
夫の言葉にセリスはにっこりと笑い、いたずらっぽく首を傾ける。
「分かった?今日の料理には特注のワインを使って味付けを変えてもらっていたのよ。今日は牛肉だけなんだけど、これからは色んな料理の味付けに生かしてもらうつもり」
妻の言葉にエドガーは得心したように深く頷き、
皿の上にある肉切れをフォークで突き刺し、改めて口に運んだ。
「・・・なるほど。噛めば噛むほど味の違いが分かるな。しかし、これは普通のワインではないな」
夫の疑問にセリスも目の前の肉切れを口に運びながら応じる。
「今まで城の貯蔵庫にあったものではないわ。新たにサウスフィガロからの取り寄せたもので、大半が貴腐ワインね」
「・・・そうか、これは貴腐ワインの味付けか・・・それに肉の中にまでワインがしっかり染み込んでいる。これは肉が良ければ良いほど、濃密な味になるわけだな。しかし、こんなワインをどこで知ったんだ?」
「この前ばあやさんのところに行った時にね・・・・教えてもらったのよ」
「なるほど、さすがばあやだ。ワインについても私以上に知っているな」
(・・・・・・)
1人で納得し口を動かすエドガーを見ながら、
セリスは思わず心の中で苦笑しつつ、目の前の水入りグラスを手にした。
(そうね・・・やっぱり『肉』が良ければ良いほど、染み込んだワインが新たな肉の味を引き出すのよね)
既にその『味』を自分の身体で体験しているセリスとしては改めて口の中に残る後味を舌で確かめる。
(あの店のあの味、懐かしくなったら足を運ぶのもいいわ・・・・)
港町サウスフィガロの行きつけになるであろう店のことを思い浮かべながら、
セリスは少し温くなったグラスの中の水を口に含んだーーーーー
ーーーー 完 ーーーー