向き合う勇気-3
あれこれ思考を巡らせ寝不足な僕は、ダラダラと食卓の椅子に腰を降ろし、醤油を手に納豆の入った小皿につけ、かき混ぜ。
父さんは何時もホント変わらず、規則的に決まったニュース番組に目をやり。妹のいずみ
は、ねばねばした物が嫌いで、納豆には手をつけず、先にフルーツのキウイにフォークを刺し、本人曰く朝のビタミンCは肌に良いらしいとの事。
声も掛けず黙ってカラになった麦茶のポットを前に出す父さん、それに対し手馴れた手つきでスタスタと、回収する母さん。前もって用意してあった新しい麦茶をテーブルに置き
「いずみー、納豆も食べなさい、後片付けするのも大変なんだから」
母さんは普段からキビキビとしており、いわゆる才色兼備で、良く言えば家庭の為に自分の事は顧みず、家事に専念する良き母良き妻、悪く言えば無愛想で最近笑ったとこを目にした事のない、気の短い口の五月蝿い親。父さんに関しては普段無口で、「おい」「今帰った」くらいしか言わない、いわゆる関白亭主、母さんとは凸凹夫婦。
「ちょっと絆、そんな暢気にしてて良いの?もう時間無いんじゃない?」
そう言われ壁掛け時計を目にし、少し顔が青ざめる。
「あっそうそう、杏ちゃんが来てるわよ」
「えっ?」
麦茶を飲もうとした手が止まる。彼女が来た?学校で朝一番に出くわすと怯えていたら
まさか自宅にまで押し掛けるとは。
僕は、会う気は無いがせっかく来てくれたのに待たせちゃ悪いと、朝食を無理に口にいれ
食器をカラにし、急いで家を出ると。
「あれ?」
涼しい風に打たれ、無人の道路を見渡し、頭上に?マークを浮かべていると
「やっほーーっ!グッモォーーニィングッ!アートボーイ!」
突如、横から勢い良く飛んで抱きしめて来る少女、それは紛れも無い杏そのもので。
どうやら待ち伏せをしていたらしい、高校生にもなって脅かそうとして。
「どうしたの?家にまで押し掛けて」
「押し掛ける、何て人聞きの悪い、好きな人と一緒に学校に行こうと誘って何が悪いの」
一瞬彼女が、毎週日曜夜6時半の国民的アニメに出てくるハナ○ワさんに見えた。
「きずなくぅーん♪」
い○のくぅーん♪、的な口調
彼女の行動が、昨日の言葉の本気度を思い知らされる。杏は本気だ、こんな朝早くに僕の家へ行く何て、彼女の家から早くても20分は掛かり、ついででも無く、よほど用事が無ければ足を運ぶ事も有り得ない。
先ほどから、テニス部で惜しくも準優勝だったとか、行きつけのクレープ屋で、新作が出来ただの、他愛も無い話をして、その口調は新しい電池に取り替えられたラジコンカーで
一方的に喋って来るも、話を聞いて欲しくて態々来たようにも思えず、先ほどから止む事を知らないその口の奥から、別の真意を感じる。
「ちょ、杏?」
バッタが飛びつくように、突然少し強い力で、僕の片腕にしがみ付き、街中の周りの人から視線を感じないか、あたふたと首を左右に回し。そんな僕の気も知らずその手を放す事は無く、校門の近くまでずっと放す事はせず。
「杏……。」