雪苺娘、いかがですか?-5
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居間の床にペタンと座り込んだラクシュが、すり鉢でごりごりと薬草を煎じている。
「……ううぅ」
アーウェンはソファーにぐったりと寝込んだまま、情けない声で呻いた。
食卓で盛ったあと、ジャムでべとついた自分とラクシュの身体を風呂場で綺麗にしようとしたのだが、急激な吐き気に襲われて洗い場で大惨事を起こしたあげくに、屍状態でラクシュにソファーまで運ばれた。
原因は明らかだ。
調子に乗ってジャムを一瓶も舐めれば、胸焼けするのは当然。
……我ながら、アホすぎる。
「ん」
ラクシュが煎じ終わった薬を椀に移して、無表情で差し出す。どろりとした青臭い緑色の液体を前に、アーウェンは顔をひきつらせた。
ラクシュと暮らし始めてから、うっかり毒キノコを食べてしまった時など、何度かこの薬を飲んだ。
すごく効くのはわかっている。
そして、とんでもなく不味いのも知っている。
「せ、せっかくですけど……寝てれば治ると思いますから……」
慌てて寝返りを打ち、ラクシュへ背を向けたが、凄まじい力でくるんとひっくり返された。
細い片腕で、やすやすとアーウェンを引き寄せたラクシュは、もう片手に持った薬の椀を、自分の口元へと添えた。
「ん……こういう時、こうする?」
ラクシュは薬を自分の口に含み、椀を放り出してアーウェンの頬を両手で掴み、唇を合わせた。
目にもとまらぬ速さというのは、こういうのだろう。
あっという間に、苦い苦い液体がアーウェンの口内に流し込まれた。
侵入してきた小さな舌が、更にそれを奥へ押しやり、飲み込めと促される。
「う、う、くっ……はぁっ!」
全部飲み終わるとようやく開放されて、アーウェンは喉まで染み渡る苦味に、顔を歪めて咳き込む。
「ん……おりこう」
ラクシュによしよしと頭を撫でられ、アーウェンはジト目で抗議した。
「急に子ども扱いしないでください」
「ん?」
「それから後で、クロッカスさんに何を吹き込まれたか、全部教えてくださいね」
「ん……」
神妙な雰囲気で頷いた雪白の髪に、軽く口付けた。
「ん?」
「でも、ありがとうございます……あれならどんな薬だって、俺は喜んで飲めます」
とりあえずクロッカスに感謝するか、尻尾を引っ張るかどちらにするかは、ラクシュに残りの話を聞いてから決めようと、アーウェンは密かに決意した。