雪苺娘、いかがですか?-4
「っ、あーうぇ……だ、め……ぇ」
組み敷いた身体の下で、白い髪がパサパサと左右に振れる。
「……だめ?」
思いがけない拒絶の言葉に、興奮に煮えたぎっていたアーウェンは、苛立たしくて犬歯を剥きだす。
ヒクヒクと喉を震わせて、泣き声で訴えるラクシュの抵抗は、快楽が強すぎるとか、恥ずかしくてたまらないとか、そういう可愛らしい理由ではなさそうだったから。
「ラクシュさんが煽ったのに、どうしてですか?」
両手で左右の乳首をつまむと、ラクシュが「ひっ」と短く息を呑む。
アーウェンに貫かれたまま、いやいやと左右に首を振り、何度もパクパクと口を開け閉めした。
「あ、あ……わたし、また……きみ、良い匂いで……」
真っ赤に充血した唇の合間に、伸び始めた牙が見えて、アーウェンは知らずに詰めていた息を吐いた。
「そういえば、前に飲んでからもう、一ヶ月近く経ってましたね」
さっきまでそんなそぶりは見せなかったから、欲情がきっかけで急に血飢えが始まったのだろう。
ラクシュの口元へ首筋を近づけようと覆いかぶさると、埋め込んだ雄の切っ先が膣内をえぐり、白い裸身がのけぞって跳ねた。
「んっ」
「飲む相手が発情してると、血が美味しくなるんでしっけ?」
「あ、ぁ……ん」
ラクシュはしっかりと目を瞑り、顔を背けたままコクコクと頷く。
「じゃあ、このまま飲んでください。俺は今、最高に気持ちいいんですから。ラクシュさんに美味しく飲んで欲しいです」
いくら平気と告げても、ラクシュはためらうのをわかっていたから、背けた顔を掴んでこちらを向かせ、吐息を零し続ける唇を舐めて誘惑した。
「はぁ……は、あーうぇん……」
薄く開いた赤い瞳が、とろんと蕩けた視線を向ける。唇がカッと開き、人狼よりもずっと細身の吸血鬼の牙が、アーウェンの首筋に喰いこんだ。
一瞬、強烈な痛みに目が眩む。
鋭い牙は、皮膚をたやすく破り血脈を傷つけ、少しだけ引かれる。牙と肉の僅かな隙間からあふれ出る血が、喉を鳴らして飲み込まれていく。
牙の刺さっている場所が、耐え難く熱い。まるで毒液を一緒に注がれ、傷口を焼かれているかのようだ。
「ん……ふ、ぅ……」
ラクシュが恍惚の声を漏らして喉を上下させる。華奢な手足がアーウェンに絡み、全身で抱きつかれた。
「う、ん、っ!!」
くぐもった声音と共に、ラクシュの身体が大きく震える。アーウェンを受け入れている胎内の壁も激しく痙攣した。
同時に牙がすっかり外れ、ラクシュは血で赤く染まった口を大きく開けて、せわしい呼吸を繰り返す。
「っは……ラクシュさん、飲みながらイっちゃいました?」
聞かなくてもわかっていたけれど、嬉しくてたまらず、アーウェンは囁いた。
牙が抜けても首筋はジクジクと痛んだが、それ以上に背筋を這いのぼる快楽が強くて、もう気にもならない。
「はぁっ……あ……はぁ、ん……」
くたりと脱力したままのラクシュが、小さく頷く。牙はもうすでに、普通の人間と同じような犬歯にもどっていた。
「ああ、もう……ラクシュさん……っ!」
堪えきれずに抱きしめて、唇を重ねる。赤く染まった口は、今度は甘くない鉄さびの味がした。
「ラクシュさんが欲しいだけ、いくらでも飲ませますから! それで貴女を独り占めできるなら、俺にとってはご褒美です!」
「あ……はぁ……きみ、は、変……」
何度も角度を変えて唇を交える隙間から、ラクシュが切れ切れに呟く。近すぎてよく見えなかったけれど、少し微笑まれた気がした。
「はい。ラクシュさんと同じです」
アーウェンは苦笑した。
片手でラクシュの腰を引き寄せ、もう片手をラクシュのそれを合わせて指を絡める。また唇を合わせて舌を絡めて、もうこれ以上ないほど、全身で深く繋がる。
―― 最高に、幸せだ。