雪苺娘、いかがですか?-2
ラクシュは淵いっぱいまで入った紅茶カップを取り、一口飲んでから再び口を開いた。
「クロッカス、悪くないよ。……私、恋人とか、よく解らないけど……アーウェンは、大好き。
だから、どんなことしたら、アーウェン嬉しいか……聞いたんだ」
「え……?」
思いがけない告白に、アーウェンのオリーブ色の髪から、ヒョコンと同色の狼耳が飛び出た。椅子の後ろからは、はみ出た尻尾がパタパタと揺れている。
昨日、情報隠蔽に必死ですっかり様子がおかしくなっていたアーウェンのために、ラクシュも色々と考えてくれたのだろうか。
「そ、そうでしたか……ラクシュさんの気持ち……すごく嬉しいです」
嬉しくて溜まらず、顔が熱くなる。
このとても年上の女性は、どうしてこうも一々、可愛らしいのだろう。
ラクシュはチロリと上目でアーウェンを見て、眩しそうに両眼の上へ手をかざした。
「きみが、望むなら、私……」
そして彼女は盛大な決意を示すように、深呼吸を一つした。
「ちゃんと、見るよ? ……アーウェンの、裸エプロン」
「俺ですかっ!!!!!」
思わず、アーウェンは勢いよく椅子から立ち上がった。
「ちょ……待ってください。俺の裸エプロンて。誰が喜ぶんですか。ラクシュさんですか!? 喜んでくれるんですか!? ラクシュさんが愛でてくれるなら、やぶさかでもないですが、あからさまに、『きみが望むなら頑張ってつきあうよ』な、雰囲気ですよね!?」
―― クロッカスさんのばかっ! どうせ教えるなら、ちゃんと教えてくださいよ!!
俺の夢と期待を返しください!!
アーウェンは目端に涙を浮かべて、続く言葉を飲み込む。
「……ん? 私、間違った?」
「大間違いです!」
キョトンと首を傾げるラクシュに、バッサリと断言した。
「だいたい、そういう格好をするのは、普通は女の人で……っ」
「ん?」
「いえ! な、何でもないです!」
つい余計な事を口走ってしまいそうになり、アーウェンは慌てて首を振った。
彼女はとても長生きをしているが、生まれて百年間はひたすら戦いに明け暮れ、その後は一室に篭り、話相手もいない日々だったらしい。
有する知識は非常に狭く偏っている。
反してアーウェンは、王城の泉で生まれた直後から、「売り物」として価値が出るように、みっちり多方面の教育をされ、多忙な従者生活でも、上流階級の習慣から下世話な性趣向まで、何かと雑多な知識を身につけた。
そもそも裸エプロンという特殊嗜好の時点で、普通ではないし、この家でエプロンをつけて料理をするのはアーウェンだから、ラクシュが勘違いするのも無理はないだろう。
「……ん」
ラクシュは何かを思い出そうとするように、また首をかしげて呟いた。
「でも、クロッカス、言ってた……女は、お皿になる……らしい」
―― ラクシュさあああああんっ、それ、女体盛r……っっっ!!!!!
「……」
アーウェンは無言でフラフラと椅子から離れ、無言でテーブル上の茶器とビスケットの皿を、壁際に作りつけられた戸棚へ退かした。
「あ」
残念そうにビスケットの皿を目で追うラクシュを抱きしめて、震える声で訴えた。
「ラクシュさん……っ! あ、あんまり、煽らないでください……!」
「ん?」
首を傾げるラクシュを立たせ、貫頭衣ローブの裾をめくって、頭からスポンと引き抜いた。
露になった真っ白な乳房が、控えめに揺れる。下着のサイドを結ぶ紐も外し、細身の軽い身体を抱え上げた。
「アーウェン?」
ラクシュは不思議そうだったが、こんな風にいきなり脱がせても、羞恥に苛まれるという様子ではない。
「……お皿になってくれるんですよね? 俺のおやつを、先に食べさせてください」