陥落-6
長く続く絶頂。
男は恵の口と膣から指を抜き、ハアハアと息をつく恵の口に三度目のキスをした。
それは貞淑な人妻が陥落するシーンの始まりの合図であった。
再び恵の股の間に陣取った男は、己の肉棒を恵の腟口にあてがった。隆々とそそり立つそれを、ゆっくり挿入する。
「あ…いっ…」
腟口を押し広げて侵入してくる肉棒。
あまりの気持ちよさに、身体だけでなく首まで反った。
急激に冷めるクリトリスの絶頂とは異なり、Gスポットのそれは気持ちいい状態が長く続く。恵は未だ快楽の高みにいる状態だった。
じわじわと恵の体内に入ってくる肉棒。二度のオーガズムで敏感になっている腟口は、その硬さも熱もはっきりと伝えてくる。
男は恵の理性が崩壊していく過程を楽しむかのように、少しずつ腰を沈めていった。
「あ、あ、あっ…」
男の肉棒が奥に進む度に、得も言われぬ快感が湧き上がり、二次曲線的に高まっていく。
挿入からわずか十数秒。
恵はすでに三度目の絶頂の手前にいた。
そして、あと1,2センチで最奥に届くという所で肉棒の侵入は止まった。
快感の閾値を越える寸前でのまさかの停止。
「あっ、あっ…いや…」
意図せず漏れる声。
恵は顏を左右に振った。
その言葉と動作は何を拒否するものなのか…。
男はニヤリと笑うと、一気に腰を沈めた。
短い距離で勢いこそ無いが、重い一撃が恵の子宮に加えられた。
「あぁっ…いっ…くっううぅぅ!!!」
とうとうこぼれ出た絶頂宣言。
三度のオーガズムに身体は反り、両足が限界まで突っ張った。
挿入開始から20秒…。
恵はたった一度のストロークでイッたのだった。
そして…
恵は陥落した。
「ピチャ、ピチャ、ピチャ…」
恵は夢中で男の舌を舐め啜っている。
口の周りは二人の唾液でまみれている。
「ん…んん…んふっ」
舌を絡め合い唾液を飲み合う男と恵は、下半身で繋がったまま、獣のように互いの口を貪っていた。
「あっ、あっ、あん、ああぁっ!」
口が離れた途端、溢れ出す恵の嬌声。そこに躊躇いは一切感じられない。
ただ一度の挿入で絶頂を迎えてから1時間…恵はもう何度もオーガズムを迎えていた。
男の舌が恵の口から頬を伝い、耳に辿り着く。男は耳の中に舌を入れ、尖らせた舌先で外耳孔周囲をそっと舐めた。
「はあぁん!!」
顎を上げ身をくねらす恵。
男は恵を抱きしめながらゆっくりと陰茎を出し入れし、恵は男の動きに合わせて淫らに腰を振っている。
互いに呼吸を合わせ、全身汗まみれで快感を貪り喰らう二人の姿は、どこから見ても恋人同士だった。
男が腰を進める。
「はぁ…あっ…」
男の動きは非常にゆったりとしたもので、決して奥を激しく突いたりしない。膣の上壁を亀頭で圧迫しつつ、擦り上げるように奥へと進み、最奥の子宮口に辿り着くと、そのままジワジワと子宮を押し込んでいく。
子宮を中心に全身がとろけていくような甘い快感…。
それは恵が味わった事のないセックスだった。
夫と大学時代の恋人。たった二人とはいえ、いままでに恵がセックスした回数は数え切れない。しかし、二人ともセックスの最後には必ず腰を激しく振り、恵の子宮口にペニスを叩きつけてきた。
腟口から子宮口までが極端に短い恵にとって、それは内臓を突き上げられるような鈍い痛みを伴う動きだ。当然、快感など感じるはずもなく、それまでの愛撫で高まっていた性感すら霧消してしまう。
そう、恵の知っているセックスとは、その最後に痛みと我慢が存在するものだった。
だが、男とのセックスは違った。どこまでいっても気持ち良さしか生み出さない。
恵は高まり続ける快感に身も心も溶けていった。
男は上体を起こし両手を恵の胸に当てた。
手の平の中心に勃起した乳首を感じながら、乳房全体を肋骨に向けて押しつける。3,4センチ程の隆起しか無い恵の乳房は、潰れたあんパンの様にいとも簡単に平らに変形した。
コンビニの床を拭くポリッシャーのごとく、男はそのまま両手で円を描き始める。
円の途中で乳首が肋骨と手の平の間に挟まれ、押し潰された。
「ああっ…」
胸を中心に放射状に広がる快感。
乳首でこれほど感じる事も恵にとっては初めての事だった。
夫が乳首に行った愛撫は、舐める、噛む、吸う、摘むのみ。
赤ん坊の様に乳首に吸い付く夫を可愛いとは思っても、気持ち良かった事はほとんど無い。さらに、そんな夫もおっぱいに至ってはごく稀に数秒揉むだけだ。
恵はその度に、貧乳であることを蔑視されているかのような感覚に囚われていた。
しかし、男は今、恵がかつて受けた事のない愛撫を執拗なくらい胸に施してくる。それは、恵の女性としてのアイデンティティの肯定に他ならない。男は肉体的な欲望を掘り起こすと同時に、恵の性へのコンプレックスをも解き放っていた。
「はぁ…あぁ…あっ、あん…」
ひっきりなしに喘ぎもだえる恵。
男と触れているところ、男の動き、その全てが気持ちいい。
誘拐されてからずっと頭の中で鳴っていた警鐘も、今では全く聞こえない。
今はただ、全身を満たし溢れる快感に、愛液を垂れ流しながら嬌声をあげ続けていた。