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LOVE AFFAIR
【アイドル/芸能人 官能小説】

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6.幽囚-4

 カチャリ、と鍵が閉まる音が、より大きく聞こえた気がした。
 振り返ることができない。鍵のかかった部屋に、全裸男と二人きりになったのだ。卑劣に仕向けられたとはいえ、自らの足で入ってしまったことになる。背後から微かに男の荒い息が聞こえてくる。鍵が掛けられた瞬間、男が自分に飛びついてくるのではないか、そんな思いに全身に力を入れて防御に備えていたが、身に何も苛禍は降りかかっては来ない、……まだ。
 昼間とはいえアパートはかなり路地の奥まった所にあるし、周囲の一軒家は全て三階建て以上で陽が入って来にくく、しかもこの部屋は一番奥にあった。ドアを閉めて鍵をかけると、三畳くらいの広さの台所は平日の昼間にもかかわらず薄闇となった。
「は、悠花ちゃん……」
「なに?」
「……いつまでそんな玄関先でジッとしてるのさ? 中に入っておいでよ」
 悠花はドアを眺めながら、フッと息をついた。どうせモテない男、すぐ終わる――、その認識は甘かったと認めざるを得ない。ここに着くまでに見せつけられた男の陋劣な淫欲は、自分の想像を遥かに上回るものだった。
 だが軽蔑に値するだけに、こんな男に屈する気にはなれないし、何を要求されても隷従するなんてことは有り得ない。そんな奇妙な確信も芽生えていた。世の中の女性が憧れるファッションモデル、しかも大手雑誌の専属を務める自分が、こんな冴えない変態男に屈してしまうわけがない。
 そう思うと、再び悠花にトイレやタクシーでの衝撃的な光景に吹き飛ばされそうになっていた「演技の瀬尾悠花」のイメージが蘇ってきた。
(『心を無にして――』)
  再びこの言葉を反芻した。
「……そうね。さっさと終わらせたいし」
 振り返って腕組みし、睨みつけた。視線の先には、醜悪な体躯をした全裸の男がニヤニヤとこちらを見ている。屈するものか。汚らしい姿は見たくはないが、見せられても全く意に介さない、そんな毅然とした、高慢、高潔な女を作り上げていた。
 村本は、一瞬折れそうになっていた悠花が復活したのが、むしろ嬉しかった。人気モデルを抱く、それだけでも今までの村本の人生を考えると望外の喜びではあったが、ただ抱くのではない、普通なら自分のようなランクの男なんて絶対相手にされないのに、雑誌やネット画像を眺め、自慰の際に想像してきた淫猥な妄想を叶えさせる。しかも羞しい思いをたっぷり味わせながら――
 村本の中では、憧れの瀬尾悠花が、簡単に屈するような女であってよい筈はなかった。改めて目の前に立ったあの姿はどうだろう。サングラスで遮られていても、激しい軽蔑の眼差しを感じる。気高く美しいモデル。
「ふふっ……、そうこなくっちゃ」
 と言って、村本は奥の部屋へと続くガラス戸を開けた。中も灯りは点いていないから、様子は分からない。
「暗いんだけど」
「ああ、ごめんごめん」
 ガラス戸傍のスイッチが入れられると、何度か点滅した末に台所の蛍光灯が灯った。男の一人暮らしにしては、思っていたよりも乱雑ではない、というのが第一印象だった。ただ、外観からの予想通り、アパートの内装もかなり古かった。壁にはいくつものヒビが走り、ところどころ剥がれ落ちている。台所は普段使用しないのかシンクの中には何もない。水道の蛇口のタイプも古めだ。これまでテレビの中でしか見たことがない、「安アパート」というと頭に浮かぶそれを全て具現したような光景だった。
 膝を曲げて片足を上げ、ブーツのサイドに手をかける拍子にふと視線を落とすと、
(……!)
 先ほど村本がコンドームを引き抜いた時に垂れた精液が、蛍光灯に照らされて床の上に光っていた。一見、古いなりに綺麗にはしてそうだが、こんな男の部屋だから、どこに何が飛び散っているか知れない。たとえ掃除されていたとしても、そんな所に素足で入る気にはなれなかった。


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