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forget-me-not
【女性向け 官能小説】

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ワスレナグサの花言葉-1








どれだけ泣いていたんだろう。


陽介のアパートからの帰り道。シャッターがほとんど閉まって昼間の活気が嘘のような商店街。


そこで転んでしまったあたしは、一人でずっと座り込んだまま。


大した傷じゃないのに、もう立ち上がれないような気がした。





「……あなた、大丈夫?」


ふと目の前に、どこのかよくわからないメーカーの、履き潰されたスニーカーが目に入る。


ゆっくり顔を上げると、濃紺のエプロンをつけた女の人があたしを心配そうに見ていた。


「転んだの? 膝から血が出てるわよ」


彼女が屈んであたしと同じ高さの目線になる。


50代……くらいかな。


緩く片側に束ねた長い髪は根元が白くて、白髪染めのサインがくっきり。


化粧っ気もあまりなくて、やけにてかてか光る肌と、年相応のほうれい線がやたら目についた。









「骨折でもしたのかと思ったわよ」


青臭い匂いが立ち込める狭いスペース。


見渡せば、切り花やフラワーアレンジメント、鉢植えなんかが所狭しと並んでいて、あたしはそんな小さな花屋さんのレジの横の丸いスツールに座らされていた。


「……よし、これでオッケー! ただの擦り傷だから大丈夫よ」


件のエプロンをつけたおばさんは、あたしの目の前でしゃがみ込んでいて、消毒を終え、絆創膏を貼ると、あたしの脛をバチンと叩いた。


ああ、何だかめんどくさいことになっちゃった。


あたしに声をかけたこのおばさんは、営業時間が終了したからシャッターを下ろそうと外に出た時に、あたしを見かけたんだそうだ。


ただ転ぶだけなら気にも留めないけど、一向に立ち上がろうとしないで泣いている姿に、ただならぬ事態では? と声をかけたのだとか。


こんなのただの擦り傷だし、放っといて一人で泣かせてほしかったのに。


心ではそう思うものの、ここまでしてくれた手前、サッサと帰るのも何だか薄情な気がして、ただひたすら黙って俯くだけだった。




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