ワスレナグサの花言葉-3
「あたしにとって、陽介以上の男なんていないのよ! 適当なこと言わないで!」
キッとおばさんを睨み付ければ、彼女は一瞬目を見開いて固まる。
しまった、とでも思っているのだろうか、その表情がさらにあたしを惨めにさせた。
好きな男とはセフレ以上の関係になれず、やっと想いを伝えようと決めた頃には、彼は他の女の子を好きになっていて。
どうしてあたしは空回りしてばかりなの!?
下唇を噛み締めて堪えていた涙も歯止めが利かなくなって、一気に溢れ出す。
「どうしてよ! なんであたしが諦めなくちゃいけないのよ!」
きっと、運命の赤い糸っていうのがあるとすれば、あたしの小指に結びつけられた糸の先には陽介がいたはず。
お互い想い合っていたのに。ただ、ちょっとすれ違っただけなのに。
「なんで! なんで陽介の横にいるのがあたしじゃないのよ!」
陽介の心にもうあたしはいないってわかっているのに、陽介があたしを好きだったという過去が、あたしを聞き分け悪くさせる。
なまじ陽介の本音なんて知ってしまったから、後悔はより募る。
もう、何が正解なのかわからない。
陽介を諦めると決めたくせに、感情が追い付かなくて、やっぱり後悔がついてまわって、涙が勝手に出てきて。
タイムマシンがあったら、初めて関係を持ったあの日に戻って、想いを伝えるのに、なんて到底不可能なことを考えたり。
こんな見ず知らずの人の前で取り乱して泣きわめくほど、あたしの頭の中はグシャグシャだった。
「嫌だよ、陽介……! やっぱりサヨナラなんて出来ないよぉ……っ!」
陽介の前だと聞き分けがいいくせに、一人になった途端本音が出てくる。
すっかり錯乱状態になったあたしを、おばさんはただジッと見つめていたけれど、やがて何かを思い出したかのように、あたしの側から離れて行った。
向かった先は、レジカウンターの中。
そこで彼女は引き出しを開けて、何かゴソゴソ探しているようだ。
こんな時に何をしているのだろう。
泣きじゃくりつつも彼女の怪しい動きを目で追えば、引出しから4センチ四方程の小さな白い封筒を取り出し、再びあたしのそばにやって来た。
そして、目の前にやって来たおばさんは、あたしの胸元にそれを突きつける。
「…………?」
反射的に受け取ってしまった封筒を見つめながら、あたしは眉をひそめた。