ワスレナグサの花言葉-2
『根元生花店(ねもとせいかてん)』という個人の名前が入ったこのお店。
寂れた商店街にあるし、小さいし、地味でボロいし、ホントにお客さんなんて入っているのだろうか。
現に、あたしが陽介のアパートに足を運んでいた頃、ここの前は何度も通っていたはずなのに、こんなお店あったっけ? ってくらい存在感のないお店だった。
そんな地味なお店に、地味なおばさん。冴えないなあ、なんて彼女のふっくらした肢体をチラチラ見ながら、帰るタイミングを探っていると、バチッと目が合った。
「どうして泣いてたの?」
「…………」
「……男?」
「は?」
いきなりわけのわからないことを言ったおばさんに、キョトンと目を丸くしていると、彼女はフッと笑った。
「いや、若い女の子が人目も憚らず泣いて踞る理由なんて、恋愛のことしかないかなあ、なんて。どう、当たってる?」
「…………」
「ビンゴか。若いっていいわねえ」
唇を噛んで押し黙るあたしに、おばさんはパチンと指を鳴らした。
その態度に苛立ちが募る。
初対面の人間のプライバシーにズカズカ踏み込んで来るなんて、なんて図々しいんだろう。
あたしの涙を「若い」の一言で片付けたおばさん。
あたしの一大決心を、陽介との思い出を、茶化されたような気がして、思わず舌打ちが漏れた。
なのにおばさんはそんなあたしの態度なんて意にも介さず、ペラペラお喋りを続ける。
「まあ、今は辛いかもしれないけど、あなた美人だし、もっといい男が現れるわよ」
とか、
「ほらほら、いつまでもメソメソしてたらせっかくの美人が台無しよ」
とか。
おばさん特有のあっけらかんとした励ましが、今のあたしには神経を逆撫でするだけだった。
なんなの、このおばさん。あんたに何がわかるってのよ。
励まされれば励まされるほど惨めになる。
美人っていくら褒められたって、欲しいものは手に入らないんだから。
陽介は、恵ちゃんを選んだんだから。
悔しさ、惨めさはどんどん膨らんで、結果あたしは、ついに積もり積もったものを爆発させた。