5.姿は作り物-11
「ちょっと……!」
運転手に聞こえないように囁いて、睨みつけた。だが男は首だけこちらに巡らせ、指の動きを止めなかった。まさしく淫欲の虜となってしまったことを充分物語る顔つきだ。
そしてまた、スマホの画面が差し出される。
『今日これからいーっぱい、憧れの悠花ちゃんのパンティ、いっぱい見せてもらうね? クンクンして、アムアムしたい。いいよね?』
ひっ……、本当に悲鳴を上げそうになった。こんなことを臆面もなく言ってくる変態男と、目的地に向かっているのだ。到着したら一体何が起こるというのだろう。悠花は走っているタクシーから飛び降りたかった。
「……いいよね?」
チノパンの上から指でつまんで、肘を動かさないようにしながら、手首だけで先端だけをしごいていた。タクシー中での自慰。車内隅を見やると、犯罪対策として設置されている小型カメラを見つけた。紙袋を引き寄せているから映り込んでいないとは思うが、テレビで見たことがあるように、会話は録音されているかもしれない。
「……」
悠花は何も言えなかった。更に脚を閉じ合わせ、身を小さくするように全身に力を入れて、少しヒップをずらして窓側へ遠ざける。
「あの件のこと、あるでしょ? ……いいよね?」
録音に残るような場所で脅迫内容を言われたくない。録音は実際に犯罪が起こらなければ使用されるものではないだろうが、それを口に出して言われたら、運転手の頭の中にも残るかもしれない――
「ええ」
小さな声で答えた。
「よく聞こえなかったよ。いいの? だめなの?」
眉間にシワを寄せて、唇を噛む。
「……いいって言ってるし」
吐き捨てるように言った悠花は、とても男にも運転手にも顔を向けることができず、池袋の街並みの車窓へ向けて瞳を閉じた。
「ぐうっ……、んんっ……」
しばらくすると、不意に村本の不自然に大きな咳払い、それから咳き込むのが聞こえた。
村本を横目で見やると、喉仏が動くほど唾液を飲み込み、少し丸まった前かがみで咳き込んでいる……いや、咳き込むフリだ。身を悶えさせながら、腰がビクッ、ビクッ、とわなないているのが見えたから、わかった。
村本は尿道をまた、壮絶な勢いで精液が流れていく感覚に、声を押し殺し、咳き込んでごまかしながらも、悠花によってもたらされる射精が、自慰でも風俗でも感じたことがないほどの快感であることを再認識していた。
トイレの中では外に露出していたが、チノパンの中では圧迫されている。コンドームをしているが、漏れだすこともあるだろう。しかし、射精を我慢することはできなかった。きっと見つからない。見つかるわけがない。今の自分は神がかっている。
言われもない自信が、村本に暴挙を許していた。
(出してる……。ホントに出してる)
悠花は、男の様子、そしてその表情から、恥知らずな行為が、本当に、現実に、目の前で行われていることを認めざるを得なかった。