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LOVE AFFAIR
【アイドル/芸能人 官能小説】

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6.幽囚-1

6.幽囚



 降り立った村本は、まず自分のチノパンを見下ろした。タクシーは国道から逸れたあと、何度か折れて住宅街の一角、細い路地の入り口に停められた。
 車内でチノパンを履いたまま射精をしてからも、暫く車は走り続けた。その間にシートに凭れて動かない村本のズボンの中で、コンドームの先端に初回と変わらないほどの量で放出された精液は、相変わらず勃起し続けているとはいっても、粘液体であるから車内の振動や僅かに身をよじるだけで男茎と薄皮の隙間を伝い、根元へと漏れ出ていった。
 だが、脚の付け根にヌルヌルとした感覚が広がっていくのを感じながらも、村本はそのまま放置した。射精後の開放感を、仄かな香りに包まれながらウットリと過ごしたかったのだ。もう少し長く車内に留まっていれば、射精の臭気が充満し始めていただろう。
 運転手と代金のやり取りをする時間すらも惜しくなって、
「ありがとう、釣りはいいから」
 と、ドアを開けて自分から外に出たのだった。
「あ、お客さん」
 一万円札を支払い台に投げ置かれた運転手は、あまりにも多い金額に村本を呼び止めようとしたが、同乗の悠花も何も言わず体をずらしながら外に向かうのを見て、「……すみません、ありがとうございます。お忘れ物なく……」
 と二人を見送った。
 チノパンの股間は、漏れ出た精液のシミが垂れ落ちてしまった両足の内側にまで色濃く浮き出ていた。まるで失禁したかのような有り様だ。それを見ても村本は特に慌てる様子もなく、行き足を路地の入り口から奥へと向けていった。
 悠花も車中にいるときから、村本のチノパンの惨憺たる有り様に凡そ気づいていて、降りて明確に確認してからは侮蔑の眼差しを向けていた。最低の男だ。タクシーのシートは大丈夫だったろうか。運転手が気づき、引き返してくるのではないか。そう思うと、決して追いて行きたくはない相手だったが、悠花がどうするからを一度チラリと振り返ってきた男の後を追うしかなかった。
「……着いたよ」
 狭い路地の途中にあるアパートは、袖に鉄製の階段がある、いかにも昔ながらの造りだった。チノパンにシミをベットリつけているのに全く意に介さず歩いていた村本は、門扉の前で振り返ると悠花に到着を告げた。
 ついに目的地に着いてしまったのだ。
「……何よ、ここ」
 さすがに聞かずとも悠花には分かっていた。恐らく男の自宅だろう。ホテル――、たとえそれがラブホテルであっても、リネンやバスルームは清潔だったかもしれない。この男は、それすらも許すつもりはないのだ。
「くくっ……、さあ、おいで」
「こんなとこ、イヤなんだけど。別の――、あ、ちょっとっ!」
 悠花が言い終わらないうちに、男が階段へ歩みを進めていった。悠花はしばらく躊躇したが、やはり思わず出てしまう舌打ちの後、男の背中を追って階段を登り始めた。錆びた階段を一段ずつ、ブーツの底を鉄板に鳴らしながら昇っていく。悠花には、まるでそれが絞首台を昇る階段のように思えた。見上げると男の後ろ姿が見える。チノパンのシミは、後ろへ巡って臀部と足の付け根まで広がっていた。この有り様ではタクシーのシートにもいくらか付着しただろう。
 これだけのシミを作る量――しかも二回目の発射だ。その事実に対し悠花の防衛本能は「進んではいけない」と何度も警告してきていた。――こんな男の部屋になど、入ってはいけない。
 そんなことは分かっている。しかし男の片手に提げられた紙袋には自分の衣服があり、スマホの中には自分を破滅させかねない画像が収まっているのだ。
 男は、外廊下の一番奥の部屋のドアの前で振り返り、悠花が来るのを待っていた。腕組みをしたまま背筋をのばし、憮然とした表情で男の前まで歩を進める。


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