5.姿は作り物-10
『瀬尾悠花ちゃんの、今日履いてるパンティってどんなの?』
呆れる。答えてやる気にもなれないし、掛けてやる言葉も見つからないほどの、頭の悪い質問だ。はぁ、と聞こえるように、怒気を孕んだ溜息だけ聞かせてやった。
「気になるよぉ……。教えて?」
運転手にも聞こえるような甘えた声を出されて、悠花は背もたれに委ねた背中に、一気に悪寒が走るのを感じた。
チラリと運転手を確認する。どうせ運転手は自分のことを知らない。それにサングラスもしている――
「ばっかじゃないの?」
と、運転手の耳も構わず答えた。無意識に、閉じ合わせた脚と、裾を抑える手に力が入ってしまう。村本もチラッと運転手の方を気にして、再びスマホを操作した。
『思う存分自由にしていいんなら、悠花ちゃんのそのスカートの中も「俺のもの」ってことだよね?』
読んだ瞬間に、舌打ちが出てしまう。
鼻からゆっくり息を吐き、片手を外し、後部ドアの窓枠に引っ掛けるように肘を置く。頬杖をついた。まともに相手にする気にはなれなかった。
トントン、とバッグを指で突かれた。体勢はそのままに、サングラスの中で目線だけ向けると、文面が変わっていた。
『瀬尾悠花ちゃんの、バツグンのスタイルに張り付いてるパンティとか想像すると、ドキドキしちゃうんだよ。パンチラフェチっていうか、水着とか下着姿より、普通の服着てるカッコで、パンティ見るのとか大好きなんだ。だから悠花ちゃんの着替えてくれた姿、ドッキドキ! もちろん、もっと俺の好きなようにさせてくれるんだよね?』
長文になっていたその内容は、悲鳴が出そうなほど悍ましいものだった。声に出して、運転手の前で言わなかっただけまだマシ……、と、そんな慰めでは抑えられないほどの憤りを感じた。
「それってさ、今しなきゃいけない話?」
あまり男を刺激したくなかったが、文句を言ってやらなければ気がすまなくて、運転手にも聞こえるように放った。
村本は先ほどのセレクトショップの紙袋を見た。悠花のブラウス、ストール、スキニージーンズ。そして下着のラインを隠すためにブラウスの下に着ていたが、オフショルダーでは肩ヒモが見えて不格好になってしまうために脱がざるをえなかったのだろう、キャミソールがキレイに畳まれて入っている。
(丁度いい……)
紙袋はそれなりの大きさがあるため、運転手からは影になっていた。すぐ傍に自分の好きなスタイルを身にまとった憧れの悠花が居て、そこから放たれる呆然となるほどの香りに包まれながらジッとしているなど、もう耐えられなかった。目的地までは今少しかかる。運転手に見咎められて猥褻行為として通報される可能性はあったが、ここまで敏感になった男茎を何もせずに放って置くと、狂ってしまいかねないほど興奮が押し迫っていた。
スマホを握っていない方の手を紙袋から離し、座ったためにできたチノパンのシワを更に押し上げるように勃起している先端を、人差し指と中指で擦ってみる。
(おっ、ふっ……)
声が出そうになって辛うじて収めた。それでも腰が跳ねてしまったから、膝上の紙袋がカサッと音を立ててしまった。運転手は全く意に解していない。池袋方面に向かう車列は、ある程度流れているが、混雑しているため、運転に集中しているのだろう。
悠花は男がモゾモゾしている様子をチラリと見た。真横からは男のしていることが全て見える。
男はスマホをいじりながら、もう片方の手指で股間を弄っていた。とても現実とは信じられなかった。タクシーの中で……運転手に見つかっては事件になるかもしれない。そんなことになれば、同乗している自分も巻き込まれてしまう――